アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューで最近の円安について語っている。
円安とドル高
読者も知っての通り、ドル円が上昇しているが、この上昇には2つの側面がある。ドル高と円安である。
この上昇分にはドルが上がった分と、円が下がった分がある。
ドル円は3月頃からおよそ20%上昇しているのだが、同時期にドルは例えばユーロに対しても10%ほど上昇しているから、大雑把に言って20%のドル円上昇のうち、半分がドル高、半分が円安と考えることができる。
サマーズ氏、日本円を語る
アメリカの金利上昇とドル高についてはここでも多くのことを語ってきた。アメリカのインフレは深刻だが、インフレとはドル紙幣の価値下落のことであるにもかかわらず、為替相場ではドルが上がっている理由については以下の記事に纏めてある。
だが今回は珍しくもサマーズ氏が日本円について語っている。問題となっているのは、日本銀行が行なっている、長期金利を固定する緩和政策であるイールドカーブコントロールについてである。
アメリカがインフレ抑制のために利上げに動いている一方で、日銀はいまだに長期金利を上げさせない緩和政策を続けている。
だがインフレの波は日本にも押し寄せてきている。日本はこのまま長期金利を低位固定したままでいられるのだろうか? サマーズ氏は次のように述べている。
日本は遅かれ早かれイールドカーブコントロールを止めなければならなくなるだろう。
誰もが思っていたことを口にしたという感じだろうか。サマーズ氏は以下のように理由を説明している。
それが為替レートであれ、長期金利であれ、株価であれ、経済において何かを固定しようとする試みは、大抵始めるのは簡単だが出口はまったく容易ではない。それが日本にとっての問題だ。
金融において大抵のことは、始めるのは容易だがやらかした後に出口を考えるのは難しい。例えば積立NISAである。
量的緩和を始めた人々が、「出口戦略は後で考える」を口癖にしていたのが微笑ましく思い出される。
そう言えば積立NISAも、「出口がない投資」ではなかったか。期間を定めない投資は、定義上永遠に失敗することがない。おめでたいではないか。「われわれは長期的にはみな死んでしまう」と言ったケインズ氏が墓から出てきそうである。
さて、いまや日本は円安でインフレ悪化か、利上げで経済悪化か(どちらにしても経済は悪化しているのだが)を選ばなければならない。後というのが今来ているのだから、彼らには是非今考えてほしいものだが、残念ながら彼らはそのための頭脳を持っていない。無い袖は振れないのである。
結局、ただの官僚であって金融の専門家でも何でもない日銀の人々の金融におけるレベルは、積立NISAに騙される一般の日本人と何も変わらなかったというだけのことである。
この話の酷いところは、一般人は自分のお金を自分の責任で失うだけだが、日銀は自分の失敗で人のお金を失うということである。
だから、ハイエク氏の言うことを聞いておけとあれだけ言ったではないか。
結論
サマーズ氏は日本の状況を次のように纏めている。
日本がイールドカーブコントロールを止める時、何が起こるのかは想像もつかない。
イールドカーブコントロールを止めなければ、止めざるを得なくなる圧力がどんどん蓄積されてゆくだろう。彼らが資金を市場に流し込めば流し込むほど、日本円は更に弱くなってゆく。
日本がイールドカーブコントロールを止める瞬間は恐らく近づいている。一方で、アメリカが利上げを止めなければならなくなる瞬間も、同時に近づいているのである。
日本にとって最悪なのは、緩和を止めるのが遅すぎて、この2つのタイミングが重なることである。
そうなればドル円のチャートは本当に面白いことになるだろう。だが日銀ならやりかねない。ドラッケンミラー氏も、興味深く見守っているのではないか。