3月10日、ECB(欧州中央銀行)は政策決定会合を行い、マイナス金利の更なる利下げと量的緩和拡大の追加緩和を発表した。市場予想も上回る満額回答の緩和プランだったのだが、市場の反応はユーロが反発、欧州株は下落というネガティブな結果であった。
2015年後半からの世界同時株安以降、中央銀行の存在感はほとんど市場に無視されており、今回の結果は驚くほどではないが、量的緩和の拡大という明らかな追加緩和が市場に無視されたという事実は、やはり相場の重要な転換点を暗示しているのだろう。
本稿では今回の追加緩和の詳細とその後の市場の動きを俯瞰したうえで、それらが2016年の相場に対して持つ意味を考えてゆきたい。
追加緩和の内容
先ず、今回のECBの決定は文句なしの満額回答であった。追加緩和の内容は以下の通りである。
- 限界貸出金利を0.30%から0.25%へ引き下げ
- リファイナンス金利を0.05%から0.00%へ引き下げ
- 中銀預金金利を-0.30%から-0.40%へ引き下げ
- 量的緩和の資産買い入れ規模を月間600億ユーロから800億ユーロへ増額
- 期間4年のTLTRO(的を絞った長期資金供給オペ)を4回実施
- 投資適格級非金融機関の債券も買い入れ対象に追加
この中で主なものはマイナス金利の0.10%の利下げと量的緩和の拡大である。2015年前半までの量的緩和相場であれば、市場は大いに好感したはずである。しかし実際の反応はどうであったか? 順にチャートを見てゆきたい。
ユーロドル
追加緩和発表当初、ユーロドルは追加緩和を素直に好感し、ユーロ安方向で推移していた。以下のチャートの下髭部分を見ると、一時1.10から1.08近くまで2%ほど下落していたことが分かる。
しかしユーロドルは結局下落幅を取り戻し、1.10から2%弱ユーロ高方向の1.12近い水準で推移している。ではその後何が起こったのか?
はっきりと言ってしまえば決定的な何かがあったわけではない。タイミングとしては、ドラギ総裁がこれ以上の利下げは想定していないと述べた後にユーロは反発を始めたが、その発言自体は単なるきっかけであり、本当の原因は市場が金融政策の限界を感じていることだろう。
日銀のマイナス金利の時にも言ったが、中銀はこの程度の市場の混乱で追加緩和を使うべきではなかったのである。量的緩和バブルの崩壊はまだ始まってもおらず、現在の世界同時株安はバブル崩壊のただの予兆でしかない。
にもかかわらず、ECBの金融緩和はほとんど限界まで来ている。量的緩和の規模は既に拡大され、マイナス金利も-0.40%と、預金流出の可能性を考えればこれ以上の緩和余地はあまり残されていない。
ではこの状況で量的緩和バブルが崩壊すればどうするのか? この時点で下落余地が一番大きいのは、量的緩和を再開できる米国のドルであり、その点を考慮すればドルに対するユーロ高はもう進みようがないのである。これはドル円に関する記事でも言及した。中銀の手詰まりが本当の原因なのである。
ドイツ株
ユーロ高に呼応するようにドイツ株も下落している。ユーロ同様、一旦好感してからの反転となっている。
米国株
一方で米国のS&P 500も似た反応ではあるが、下げ幅は縮小している。ユーロに対するドル安がプラスの影響を与えたのかもしれない。
原油
原油はほぼ変わらずで、短中期的な高値圏を維持している。したがって米国株の相対的な堅調は原油価格が影響したわけではない。ユーロに対するドル安だろう。
金
一方で、同じコモディティでも金価格は上昇した。中期的な高値を更新しそうな勢いであり、中銀の金融緩和の効果が薄く、長期の緩和を強いられるとの思惑が投資家の買いを誘ったものと思われる。
金についてはわたしは2015年12月から買いを推奨しているが、それにしても金の短期的な強さには予想を超えるものがある。実はここ数週間ほど米国の長期金利は反発しており、以下のように今回のECBの追加緩和にも利回り上昇で反応しているのだが、それでも金価格は上昇している。
米国の長期金利の上昇にもかかわらず値上がりする金は、投資家が高い利回りを放棄してでもドルより金を持ちたいと考えていることを示しており、かなり強い中央銀行への不信と金への需要を暗示する動きである。
個人的には金は長期投資であるので短期的な値動きはあまり気にしないが、これらの動きはポジティブに捉えている。米国の長期金利が上昇する局面では調整があっても良いと考えていたのである。
結論
以上、ECBの追加緩和と市場の反応を俯瞰したが、読者も薄々気付いている通り、わたしは中央銀行の動向をもはやほとんど気にしていない。今回の反応を見るに、他の投資家たちも同じような気分なのだろう。そもそも中銀総裁たちが世界経済の現状を何一つ理解していないような現状では、何をしようが無駄というものである。
彼らが世界同時株安の本当の意味に気付く瞬間は来るのだろうか? 世界経済にはまだ取ることの出来る対策が残されているが、中銀も政府も、そこに辿り着くまでにはまだ時間がかかるのだろう。