ドラッケンミラー氏: 今の相場はドットコムバブル崩壊前に似ている

前回の記事では、ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューから、彼がドットコムバブルにおいて一度損失を出したものの、そこから復活して爆益を上げた話をお伝えした。

だがこの話には少し余談がある。当時のバブル崩壊前の様子と現在の相場が似ているという話である。

一度反発したドットコムバブル崩壊

話を2000年に戻そう。バブルとなっていたハイテク株の買いで大きな利益を上げ一度手仕舞ったものの、買いを続けていた若い部下が隣で利益を出し続けていたことでもう一度買いで入り、ドットコムバブルの天井を掴んでしまったドラッケンミラー氏は、ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを辞め、アフリカに旅行に行った。

そして5ヶ月後の9月に帰ってきたドラッケンミラー氏は、相場の様子を見てこう思った。

新聞を開いて驚いた。Nasdaqは下落の大半を回復し、S&P 500は市場最高値付近まで戻っていた。

当時のS&P 500のチャートを掲載してみよう。

ドラッケンミラー氏が損失を出したのは4月の下げである。ハイテク株を中心とするNasdaqではないため下げが大きくないが、それでも米国株は下げ、そして9月には元に戻っていた。

市場のムードはまだ天井圏のものであり、当時のグリーンスパン議長は経済の過熱を覚ますために利上げを行なっていた。

ドラッケンミラー氏は次のように説明している。

原油価格は上昇している。金利は上がっている。ドルも上がっている。何故株価は上がっているんだ?

この組み合わせは将来の企業利益にとって常に最悪である。

そしてドラッケンミラー氏はこう付け加える。

ところでこれは何処かで聞いた話だとは思わないか。

読者にも予想できる通りである。ドラッケンミラー氏は、過熱してインフレになった経済に対して中央銀行が金融引き締めを行ない、ドルが上がっている今年の状況が、ドットコムバブル崩壊前夜と似ていると言いたいのである。

原油価格の上昇、より一般的には物価上昇は、企業利益にマイナスの影響を及ぼす。原材料費が高くなる一方で、それを売値に転嫁すると売れなくなるからである。

ドルの上昇も米国企業の海外での収益を減らす。

ドラッケンミラー氏はこれらの影響を計算するよう友人に頼んだ。彼は次のように述べている。

彼の返信によれば、原油と金利とドルがこれだけ上がった状況下では、歴史的には次の年の企業利益は35%下がる。

しかしウォール街のアナリストの企業利益の予想の平均では18%増加となっていた。

現実と市場予想の乖離があるとき、それは常にマクロの投資家にとって漁場である。

2022年の状況

さて、今の状況に戻ってこよう。まずドルは上がっている。以下はユーロドルのチャート(下方向がユーロ安ドル高)である。

次は原油価格のチャートである。

次はアメリカの長期金利のチャートである。

これらは確実に企業利益に影響する。そしてそれは既に決算に現れている。例えばNetflixの決算が悪かったのは、インフレで生活が厳しくなったアメリカの消費者が娯楽から削り始めていることの証左だろう。

個別企業の決算は、その企業に投資していなくとも、経済について多くのことを教えてくれる。だがそれをわざわざ読む人は少ない。

面白いことに、日々上下する株価や過去40年の米国株チャートを気にする個人投資家はいる一方で、現在の企業決算を気にする人は少ない。ましてや企業利益が将来どうなるかを考える人など誰もいない。

未来が過去と違う状況なら過去のデータには何の意味もないのに、多くの人がこれまでどうだったかをベースに物事を考えている。

そして将来を示唆してくれる資料を読んで勉強しようという気は、勉強したくないからインデックスを買っている人々には全くないのだろう。彼らには相応しい結末が待っている。

結論

一方で、ドラッケンミラー氏が現在空売りを利益確定して一時休止しているのは、2000年9月までのドットコムバブルの反発があったという経験に根ざしているのかもしれない。下げ相場とは長丁場なのである。

筆者も株の空売りについては既に説明した理由で、ある程度利益確定している。

ちなみにもうすぐアメリカの消費者物価指数が発表される。インフレについてはピークが予想より早い可能性を排除しておらず、利益確定もそのためだが、筆者のメインシナリオ自体は今後数ヶ月から半年はインフレが続くというものである。

だからその間インフレが止まらず、株価が下がり続けるということはあるだろう。しかしその場合にはドルが更に上がっているはずで、ドル高はインフレ抑制に寄与するため、いずれ中央銀行は緩和に転換せざるを得なくなる。それはまさに2000年のグリーンスパン氏の時と同じシナリオである。

インフレ・金融引き締めでドル売りの大きなチャンスが来るもよし、株価反発でもう一度空売りのチャンスが来るもよしということである。身軽になったポートフォリオに個人的には満足している。