2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻以来、ロシアの通貨ルーブルは、投資家のパニックによって一度急落した。
アメリカやEUなどがロシアに対する経済制裁を行ない、それによってロシア経済が窮地に陥ると西側の人々は考えたからである。
しかし金融市場はどういう審判を下しただろうか。西側であれ東側であれ、金融市場はどちらの側の政治的目論見も考慮してはくれない。金融市場は正直に実利に反応する。
その後のドルルーブルのチャートがどうなっているかと言えば、次のようになっている。下方向がドル安ルーブル高である。
西側の人々の予想は政治的幻想に過ぎなかったようだ。西側のメディアは今でもウクライナ情勢について太平洋戦争時並みの官製放送を続けている。
債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は最近、次のようにツイートしている。
ルーブルは現在、ドルに対してウクライナ前より高くなっている。そしてドルは当時から他のほとんどの通貨に対し大きく上がっている。つまり、ルーブルは侵攻後とんでもなく上がったことになる。やれやれ。
ルーブル上昇の理由
どうしてこうなったのだろうか。
まず重要なのは、ウクライナ後に西側の経済制裁によってエネルギー資源や農作物などのコモディティ価格が上昇したことである。例えば原油価格は次のように推移している。
だがロシアは西側の経済制裁で原油を売れないのではなかったのか。その謎は、中国やインド、ハンガリー、ブラジルなど、西側の官製放送に影響されていない国は日本人が考えているよりも多いという事実によって解消される。
実際には、ロシア産の資産は西側が買わなくともこれらの国によって購入されているだけでなく、一部はこれらの国から西側諸国に転売されている。
このようにロシアは制裁下でも問題なく儲けている一方で、日本人やアメリカ人などは政治家の行なった無意味な制裁の犠牲となってインフレに苦しんでいるということである。
ロシアはデフォルトしたのか?
ちなみに制裁のもう1つの結果として、ロシアがデフォルトしたというニュースが西側諸国で流れている。
ロシアは実際に儲かっており、払う資金は十分にあるにもかかわらず、デフォルトとはどういうことだろうか?
それは制裁によりロシアがドル建ての送金を行えなかったためで、ロシアはルーブル建てでの支払いの意志は示している。ロシア政府のペスコフ報道官は次のように述べている。
ロシアが送った資金をユーロクリア(訳注:国債決済機関)が横取りし、受取人に送らなかったことはロシア側の問題ではない。
この論点には非常に大きな意味が含まれている。
つまり、このデフォルトがロシアの問題なのか、あるいはドルやドルを中心とした西側の決済システムの問題なのかということである。
西側の人々の主張では、理由は何であれロシアは資金を送れなかったのだから、これはデフォルトだということである。アメリカ政府は、制裁の成果が出たとして大喜びしている。
一方で、もう1つの冷静な見方はこうである。アメリカの通貨ドルを使えば、西側諸国の政治的な都合によって資金を失う可能性がある。
だから投資家にとっての問題はこうである。これはロシアのデフォルトなのか? それともドルのデフォルトなのか?
この問いに対して金融市場は実利に基づいたシビアな判定を下す。もう一度ドルルーブルのチャートを掲載しておこう。
結論
結局、為替市場は西側の言う「デフォルト」のニュースにほとんど反応しなかった。要はそういうことである。日本人やアメリカ人の気づかないところで、世界の国は西側の決済システムを白い目で見ている。
一方、7月に入ってからドルルーブルのチャートはルーブル安方向に少し戻している。
この理由は日本の読者はあまり知らないだろう。西側の制裁でルーブルがあまりに上がってしまったので、通貨高に困り始めたロシアがルーブル安方向の為替介入を考え始めたのである。
具体的には中国など西側の制裁に関わっていない国の通貨を買うことでルーブル高を抑えるということである。
西側の制裁によって豊かになった資源国ロシアの資金が、愚かな制裁に参加していない国々に流れてゆく。ロシアは通貨高を他の国と分け合うつもりである。
ちなみに、日本の状況とは正反対だが、通貨高はインフレに対する最良の解決策である。自国通貨が高ければ他国の商品を安く買い上げ、自国のインフレを抑制することができる。
インフレと通貨安が国のためになるという完全なまやかしを人々は何故信じたのだろうか。自国に資源もないのに無意味な政治ゲームにかまける国はどんどん滅んでゆくだろう。