世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログでウクライナ情勢について語っているので紹介したい。
戦争を予想したダリオ氏
レイ・ダリオ氏は長らく経済の長期停滞について語っている。彼はコロナ初期から紙幣印刷によるインフレについて警告していたし、過去の覇権国家を研究した結果、ゼロ金利と量的緩和の時代の後にはインフレと戦争の時代が続くということは歴史が証明していると語っていた。
インフレについては筆者やジェフリー・ガンドラック氏など他の投資家も同意していた一方で、戦争が起こるという予想に強く同意できた論客はいなかったのではないか。
しかしその後、2022年2月末にロシアがウクライナに侵攻し、ダリオ氏の予想は的中することになる。
この予想において、ダリオ氏はウクライナで何かが起こると予想していたわけではない。しかし彼は覇権国家の経済が疲弊してくると、これまで覇権国家の振る舞いに我慢していた他国と疲弊した覇権国家との間で諍いが起こると予想したのである。
そしてその予想は見事に当たった。戦争を予想した投資家がこれまで居ただろうか。これは単なる経済予想の範疇を超えている。
ロシアは勝ちつつある
さて、このようにウクライナ情勢をマクロ的に予想したダリオ氏だが、そのダリオ氏は現在のウクライナ情勢をどう見ているだろうか。
まず、侵攻を行なったロシアにとっての勝利条件をダリオ氏は次のように定義している。
- ウクライナ東部を支配すること
- ロシア経済へのダメージが許容範囲に収まること(10〜15%なら許容範囲だが、30〜40%は駄目だろう)
- プーチンが実権を握り続け、国際舞台にも立ち続けること
そしてダリオ氏はこれらの条件について次のように語っている。
現状では、ロシアはこれらの条件を満たし、勝利しつつあるように見える。恐らくは「より敗者ではない」と表現するのが妥当かもしれないが。
では「より敗者」なのは何処の国だろうか。ダリオ氏はウクライナ情勢が西側諸国に引き起こした結果について語っている。
アメリカ主導の経済制裁は非効率であり、スタグフレーションを悪化させている。またドルと資本市場の武器化のコストもあり、経済制裁はアメリカ国民と制裁を掛けられていない他の国々にとって高く付くものとなっている。
ここでは何度も言っているが、ロシア産の金属やエネルギー資源を買わないというロシアへの経済制裁(岸田首相はこれをやって満足げである)は、アメリカ人や日本人を物価高騰で苦しめる一方で、ロシアはむしろエネルギー資源の価格が上がって喜んでいる。
ロシアにとっては、日本やアメリカが買わないならば、中国やインドなどNATOに支配されていない国々に売れば良いだけの話だからである。
唯一の例外は建設済みのパイプラインを通さなければ売れない天然ガスだが、EUはこのパイプライン経由の天然ガスだけを制裁の対象外としており、政治家の経済音痴ぶりには反ロシア筆頭のジョージ・ソロス氏も嘆いているだろう。
むしろウクライナ情勢における敗者とは日本のことではないのか。アメリカにとっては自分の戦争であり、ヨーロッパは自分の地域の利害がかかっているが、日本だけはこの状況で失うものしかない。
針に糸を通すようなコントロールでそういう選択肢を撃ち抜く自民党の能力はいつもながら神がかっている。
「ウクライナ疲れ」
さて、ウクライナにおける戦争は今後どうなってゆくだろうか。ダリオ氏は次のように述べている。
強くロシアに対抗してNATOの側に付く国はほとんどいないように見える。そしてこの戦争に伴う比較的高いコストのために、NATO加盟国の間でも戦争に対する支持が弱まってきているようだ。
昨今のニュースでは「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」という言葉が聞かれる。イギリスのジョンソン首相がそういう風潮を警告してもいる。
しかし筆者はそれがゼレンスキー氏やウクライナ政府内部の人間の人柄に起因するもののように思える。自分の要求だけを声高に主張し、相手に感謝もしない人間の支援をし続けるのは、欧米の国民にとって我慢ならないことだろう。
しかしNATOの東側への勢力拡大によって引き起こされたウクライナにおける衝突と、その衝突を助けたぜレンスキー政権の評判があまり良くないことは、世界中の人々が筆者の思ったよりまともだったということを意味しているように思える。
SNSの普及以来、世界の政治はどんどんまともになっているような気がする。政治家がSNSを規制しようとするのも当然のことではないか。だがウクライナ情勢においても、彼らの情報統制はまともに機能していないのである。