急速にデフレを織り込み始める金融市場

世界的な物価高騰がニュースを賑わわせているが、ここの読者にとってインフレは現金給付の当然の帰結であり、筆者が2年前から警告していた状態であることを覚えているだろう。

それから2年後、ようやく世間がインフレで騒ぎ始めたのだから、ここではそろそろデフレを予想する時期だろう。常に後追いの世間や政治家を尻目に投資家は先を行くのである。

デフレの兆候

世間はインフレで大騒ぎしている。ものの価格がどんどん上がっているのだから大騒ぎするのは当然だが、政治家はそれが自分が引き起こした災害であることを忘れている。

そして人々は自分が現金給付を支持したことを忘れている。

だが投資家は彼らを放置して先を読むべきだろう。

現在のインフレが起こる前に、金融市場では2年前から金属や農作物などの価格が上がり始めていた。物価よりも金融市場の方が先に反応するからである。

では、インフレが収まるとすれば先に動くのは物価そのものよりも金融市場だと考えるのが当然だろう。

米国株が暴落しているのもその1つである。

だが投資家にとってはもっと重要なチャートがある。市場の期待インフレ率である。

3月以降、ほぼ一貫して下がっているのが分かるだろうか。

そしてコモディティ市場も原油などの例外を除き、ほとんどの銘柄が3月前後をピークに減速している。

デフレの順序

現在のインフレが起こった時の状況をもう一度思い出したい。タイムラインとしては次のようにインフレが起こった。

  1. 金融市場でコモディティ銘柄の上昇が始まる
  2. 店の仕入れ価格である卸売価格が上昇する
  3. 消費者が店から購入する商品の価格が上昇する

したがって、ここから中央銀行の金融引き締めでインフレがピークを迎えるとすれば、ピークを迎えるまでに次の順序を辿るはずである。

  1. 金融市場でコモディティ銘柄の下落が始まる
  2. 店の仕入れ価格である卸売価格が下落する
  3. 消費者が店から購入する商品の価格が下落する

そして、今すでにこのプロセスの最初の段階が始まっているのではないか。

事実、1974年の物価高騰による株価暴落相場では、株価暴落の終盤にはいくつかのコモディティ銘柄が減速していたことを以下の記事でもう一度確認してもらいたい。

デフレと金融市場

ここ最近筆者の頭にあったこうした考察を反映し、以下の記事では次のように書いておいたが、その後の市場の値動きを見るとこの判断はどうも正しかったように思える。農作物などが急落しているからである。

筆者としては、コモディティの買いを減らしながらもゴールドなど比較的安全な資産に絞る方向で行きたいと思う。

筆者と同じく株式の空売りとコモディティの買いを組み合わせて大儲けしたスタンレー・ドラッケンミラー氏がトレードを一時休止していると報じたが、次第に筆者も同じ方向に傾きかけている。

コモディティの下落トレンドはどうやら確かなようだ。一方で株式はどうだろうか。株式が上がるような状況でインフレが収まるとは思えないが、以下の記事で論じたように株安の大底はインフレのピークであり、そして思ったよりも実体経済が弱かったために、インフレのピークは予想より早いかもしれない。

ドラッケンミラー氏は一時休止について、株高を予想するというよりは、再びオッズの良い賭けが出来る状況を待っているという印象だった。

そしてそれは、賭けるべきときに大きく賭け、そうでない時にはさっと手を引くという彼の投資哲学にかなった判断である。

結論

筆者はドラッケンミラー氏のように完全に一時休止するつもりはないが、ポジションを縮小してチャンスを待つというドラッケンミラー氏寄りの態度になってきたようだ。

株式の空売りとコモディティの買いを推奨した年始の記事以来十分儲けているのだから、ある程度利益確定してもバチは当たらないだろう。

そしてアメリカのデフレと景気後退が視野に入ってきたということは、そろそろ株式の空売りよりもドルの空売りの方が分の良い賭けになる状況が来るということである。

結果として、今年のトレードはドラッケンミラー氏とほとんど同じものになりそうだが、マクロの投資家としてはやはりこの流れを読むのが筋だろう。