インフレに良く耐えているスイス、利上げ決定でスイスフラン急騰

FOMC会合などもあり少し遅くなったが、スイスフランに関して書いておこう。6月16日、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は政策決定会合で0.5%の利上げを決定し、政策金利はマイナス0.25%となった。

健全なスイス経済と金融緩和

これはコロナ後どころか、リーマン・ショック後初の利上げとなる。

あまりスイスに詳しくない読者もいると思うので、まずはスイスという国の状況について書いておこう。

贅沢な悩みなのだが、スイスは常に通貨高に悩んできた国である。地理的にはヨーロッパの中心部にあり、経済的には周りをユーロ圏に囲まれている。

具体的にはドイツやフランスなどなのだが、両国の物価はイタリアやギリシャなど経済の弱い国も参加するユーロ圏に加盟して以来、著しく低くなった。

これは小国スイスの観光業や輸出産業にとって悩みの種である。スイスフランが高ければ、隣国の人々にとってスイスで売られているものは高く感じる。だからスイス国立銀行は常にユーロを意識し、ユーロに対してスイスフランが高くなりすぎないように細心の注意を払ってきた。

だが経済規模が全然違うギリシャとドイツを一緒くたにするというユーロの欠陥からユーロ圏経済は沈んでゆき、ユーロ圏経済はマイナス金利と量的緩和に頼るようになった。

一方、スイス自体は小国だが世界有数の豊かな国であり、財政赤字もないどころか財政黒字を積み上げ、コロナ後は流石に赤字を出しているが、来年には黒字に戻る予定となっている。

だからスイスに金融緩和は必要なかったのだが、緩和をしなければ財政が健全なスイスの通貨はどんどん上がってゆき、ボロボロのユーロ圏との差が開いてしまう。

結果として、スイス国立銀行は世界有数の強力な緩和を行う中央銀行として知られるようになった。そこまでしなければユーロと同じくらい通貨を弱くすることができなかった。

時にはどうしてもスイスフランが強すぎ、為替介入に失敗してスイスフランが暴騰する逆ショックを引き起こしてニュースになった。

スイスがついに利上げ

だから16日にスイス国立銀行が0.5%の利上げを発表したとき、金融関係者は驚いた。彼らはこう発表している。

スイス国立銀行は増大するインフレ圧力に対抗するため、金融政策を引き締め、政策金利を0.5%利上げして-0.25%とする。

当然、スイスフラン相場は上昇で反応した。以下はユーロスイスフランのチャート(下方向がユーロ安スイスフラン高)である。

ちなみに筆者はユーロスイスフランを長期空売り(スイスフランを買い持ち)している。ユーロ圏が問題を抱え続ける一方、スイスは健全な財政を続け、スイスフランは長期で強含むだろうと考えているからである。

コロナで現金給付などの無茶苦茶な政策が当たり前になり、世界的なインフレが進むなか、レイ・ダリオ氏などは財政が健全な国に賭けるよう推奨している。

スイスは数少ないそういう国なのである。

スイスフランの今後

結果として、スイスではインフレ率は上がってはいるが、他の先進国ほどではない。

スイスのインフレ率はまだ2.9%であり、アメリカのように愚かな財政政策を行わなかったおかげである。

しかし一方でスイスフランはこれまで世界有数の緩和的な通貨でもあった。そういう通貨を買い持ちにする上で不安はなかったのかと言えば、次のように答えるだろう。

スイス人が健全な財政を好んでいたのは、他の国のように緩和政策で物価高騰などという馬鹿げた事態にならないようにするためであり、そのスイス人が他国の過ちのせいでインフレに巻き込まれることを良しとするかどうかは、予想が難しくなかっただろう。

また、貯蓄も多いスイス人は、引き締め政策による一時的な景気後退にも耐えることが出来るだろう。それが財政が健全であることの意味である。

ちなみにスイス国立銀行は、今後の利上げ方針について次のように言っている。

引き締め的な金融政策には、インフレがより広範にスイスの財やサービスに波及することを防ぐ目的がある。インフレが中期的な物価安定に整合する範囲に留まるようにするために、今後政策金利の更なる利上げが必要になる可能性は除外できない。

結論

ということで、筆者はスイスフランの長期的展望に引き続き強気である。

インフレとはものが不足している状況であり、そういう状況で勝つのは、自分の浪費を政府が政策で何とかしてくれると勘違いした人々ではなく、財政を堅牢にし蓄えるべきを蓄えてきた健全な経済である。

日本人もある程度蓄えがあったはずなのだが、金融庁に騙された彼らの蓄えは米国株とともに消え去るだろう。