サマーズ氏: インフレは政府のコロナ対策が引き起こした

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、インフレの原因について再び解説しているので紹介したい。

インフレを正しく予想したサマーズ氏

大手メディアではインフレについて適当なことが言われている。彼らによるとインフレは2月末から始まったロシアのウクライナ侵攻のせいらしいが、アメリカのインフレ率は2月には既に8%近くまで上がっていたので、この意見は完全な誤りである。

インフレは去年からあった。先月まで2%だったものがいきなり8%まで上がったわけではない。

コロナ以後ずっとインフレだったにもかかわらず、政治家や中央銀行や国民がずっと無視してきただけのことなのである。以下は去年の夏の記事である。

ではインフレの原因は何なのか? ファンドマネージャーらがずっと物価高騰を警告していた一方で、政府関係者は軒並み「インフレは一時的」と根拠のない念仏を唱えていた中、唯一インフレを正しく予想した政府よりの人物が、元財務長官でマクロ経済学者のサマーズ氏である。

インフレの本当の原因

金融の実務家は経済学者の意見をほとんど聞かない。ポール・クルーグマン氏など多くのマクロ経済学者の意見は市場の動きを無視した机上の空論で、彼らの予想は当たった試しがないからである。

だがサマーズ氏については多くの優れた金融家が一目置いている。そしてそのサマーズ氏はまたもやインフレを正しく予見した。

その彼がBloombergのインタビューで、インフレの原因をもう一度振り返っている。

そしてその原因とは、コロナ後に政府が行なった現金給付と量的緩和政策である。彼は次のように述べている。

インフレの原因の大部分は、政策が需要を極端に高い水準へ押し上げたことによる。2021年のGDPはドル建てで11%も増加した。これは金融政策と財政政策の結果だ。

それだけ支出が増えたのだから、当然物価は高く上がる。それだけの話だ。

コロナ対策は明らかに過剰だった。アメリカにおいては3度も現金給付が行われ、しかも3度目の2021年3月にはアメリカ経済は既に十分に回復していた。

その状態で現金をばら撒けばどうなるか? その結果は12歳児でも予想できるとして、ジェフリー・ガンドラック氏は中央銀行を批判していた。

現金を渡された人々は現金を遠慮なく使った。そして支出が増えた。GDPとは支出の総量だから、現金給付で人々に無理矢理お金を使わせることに成功したならば、GDPは増えるのである。

需要と供給の歪み

だが数字の上でGDPを無理矢理持ち上げることは出来ても、経済の中身はどうなるだろうか。

これは経済学の基本だが、物価は需要と供給で決まる。現金給付により需要が人為的に押し上げられた一方で、コロナ蔓延による工場閉鎖などにより経済が商品を供給する能力は落ちていた。

ものがないのに人々はこぞってものを買おうとするのだから、値段が上がるのは当たり前の話である。

インフレでウクライナがどうとか言い始める人々には、この12歳児にも理解できる理屈を聞かせるべきだろう。だが残念ながら、インフレ対策で金をばら撒こうとする日本の首相やその支持者たちが12歳児よりも賢いかどうかは定かではない。

サマーズ氏は謙虚にも次のように言う。

後からだから言えることかもしれないが、現在のインフレは2021年における政策の誤りに大きく関連している。

インフレと金融政策

この状況で中央銀行はどうするべきだろうか?

需要の人為的増加には量的緩和が大いに貢献しているから、中央銀行はインフレの原因であり、彼らはどうするべきかと言うよりは、彼らをどうするべきかというのが正しい質問である。

だがとりあえずは今後の金融政策について考えてみよう。

さて、一部の人々は、インフレはコロナによる工場閉鎖など生産の落ち込みが原因であり、需要側に働きかける財政政策・金融政策では解決できないと主張している。

こうした意見についてサマーズ氏は次のように反論する。

確かに供給側の問題も起きている。そしてこれが供給側の問題であれば、需要に影響する政策を変えても意味がないという考えもある。だがわたしは同意しない。

経済の生産能力が落ちたのならば、需要も減らすべきだ。

結局、物価とは需要と供給の問題なのである。ものがなければ、支出を切り詰めるしかない。だがこんな簡単な理屈が政治家や国民には分からない。

2020年5月におけるレイ・ダリオ氏の発言が、問題の根本を既にすべて説明していたのである。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

そして景気後退と株価暴落へ

そして世界中の人々が今、そのツケを払うことになる。

アメリカの中央銀行は今、需要を抑えるために強力な金融引き締め政策を行なっている。

それはこれまで株価を支えてきた金融緩和を逆回しにすることである。しかし一旦物価が高騰してしまった以上、金融引き締めでどれだけ株価が下がろうとも、インフレが収まるまではそれを止めることはできない。

サマーズ氏は次のように予測する。

実体経済はかなり強い状況にある。だが今問題は、インフレがどう考えても目標より大幅に高いということだ。

実体経済に一定量の減速が見られなければインフレは目標値かそれに近い水準には下がらないとわたしは考えてきた。そしてそれは実体経済が非常に大きな混乱の時期へと突入することを意味する。

中央銀行は経済をより良い方向に持っていく努力をするだろうが、インフレを2%や3%に戻し、なおかつ急速な経済成長を保つような道筋は存在しないかもしれない。

政府によって人為的に引き起こされた過剰を抑えるためには、人為的に過少を引き起こすしかない。ツケは支払われる。

そしてそれは株価と経済成長にとって深刻な影響を及ぼすだろう。経済減速なしにインフレは収まらないからである。

サマーズ氏はこう続ける。

減速は中央銀行が金利を大幅に上げなければならなくなることから来るのか、あるいは物価上昇が人々の収入を侵食するなどの経済の内的要因によって起こるのかはそれほど明らかではない。

だが経済の減速なしで低インフレの時代に戻るとは思えない。

結論

こうした見方は、筆者を含め多くの投資家の間でコンセンサスとなっており、多くの投資家は株式を空売りしている。

しかしこの程度のことは現金給付をやった時から分かりきっていたではないか。人々は今更何を言っているのだろうか。自分の選択の結果を受け入れるべきである。