2016年1月から始まった世界同時株安が収拾を見せていないなか、米国時間2月10日にFed(連邦準備制度)のイエレン議長がアメリカの議会で証言を行った。あまりに中身がなく無意味な内容だが、しかしそれは同時に、来たるべき市場暴落が来た時に適切に対応する能力が中銀に欠けていることを明確に示している。
議題は多岐に及んだが、その中でも重要な利下げ、マイナス金利、金融市場の混乱についてのイエレン氏の発言を取り上げよう。
利下げについて
すぐに利下げが必要になる状況にFOMCが置かれるとは想定していない。労働市場の改善が続いていることを思い出したい。
景気後退のリスクは常に存在し、また以前にも述べたように世界の金融市場の状況が実体経済を減速させる可能性があるとはいえ、米国経済に何が待ち受けているのかということについて早急な判断を下してしまわないよう注意したいと思う。だから利下げが必要になるとは考えていない。
ただ、以前にも話したように、金融政策は予め決まった道筋を進むものではなく、したがって利下げが必要な状況になれば、われわれは議会から与えられた使命を果たすために必要なことを行うだろう。
不必要に長いが、言っていることは以下のたった2つだけである。
- 今利下げは考えていない
- ただ、利下げが必要になれば利下げをする
これでは何も言っていないのと何ら変わらないどころか、利下げが必要になるかどうか、経済学者で中銀総裁のイエレン氏には分からないと率直に告白しているのである。何故このようなことになるのか? もっとまともな経済学者は他にいる。長期停滞論のラリー・サマーズ氏はオバマ氏が議長候補に挙げたが、結局イエレン氏が選ばれた。優秀な人材ほど要職に選ばれないものである。民主主義は常に選ぶ側の能力不足に悩まされる。
マイナス金利について
マイナス金利については以下のように述べた。
ヨーロッパで既に経験されていることを見る限り、マイナス金利はわれわれが精査すべき(should look at)ものである。これはマイナス金利を導入すべき理由があるからではなく、どのような手段が潜在的に可能であるかを知るためである。
Fedがマイナス金利にまで手を出せば、金価格は一段と上昇することだろう。読者には周知の通り、わたしはもう1年以上前から米国の利上げが失敗することに賭けてきたし、これからもそうするつもりである。最近の金価格上昇はその前兆である。
世界同時株安について
また、2016年1月からの世界同時株安について、イエレン氏は以下のように述べている。
年明けからの市場の混乱は、中国の為替政策に関する不確実性や、原油価格の不確実性などに関係しているように見える。しかし、これまでの市場の激しい動きを引き起こすだけの経済的な変化は観察されていない。世界的にも米国においても、経済成長の急激な低下は見られていない。
イエレン議長は世界同時株安の三大原因のうち、中国と原油の二つには言及したが、もう一つに言及するのを忘れたようである。それは即ちFed自身の金融政策である。
米国が量的緩和を停止し利上げを実行したことで、市場は明らかに量的緩和バブルの崩壊を恐れている。国債が上がっているから、バブル崩壊はまだ始まってもいないのだが、それでも市場はそれを恐れているのである。
だが、どうやらどの国の中央銀行もバブルの規模を分かっていないようだ。黒田総裁は間違いなく分かっていないし、イエレン氏は知っているのかもしれないが、対応する手段は素朴な利上げしか思いつかないようである。日本についてはバブル崩壊前に手段を使い果たす可能性が非常に高まった。マイナス金利は、少なくともタイミングについては完全な失敗である。