サマーズ氏: 経済へのダメージなしでインフレ抑制はできない

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでアメリカのインフレと実体経済について語っている。

株安と金融政策

米国株は年始から下落が続いているが、それはインフレ対策でFed(連邦準備制度)が行なっている利上げと量的引き締めが原因である。

低金利政策と量的緩和の逆をやっているのだから、これまで金融緩和で市場と経済に注ぎ込まれた資金が流出するのは当たり前の帰結である。

それが大まかな構図だが、具体的にはどうなっているだろうか。Fedはこれまで2回利上げを行い、1回目は0.25%、2回目は0.5%だったので、現在政策金利は0.75%まで上がっている。

今後、Fedは6月と7月のFOMC会合でそれぞれ0.5%の利上げをすると言っている。そしてその後ある程度手を緩めて様子を見ると言っている会合参加者も出てきている。

サマーズ氏はこの状況について次のように述べている。

Fedが柔軟に対応すると言っているのは良いことだ。長年習慣となっていた(訳注:今後の見通しをはっきり示す)フォーワードガイダンスの強調よりよほど良いだろう。

金融政策に関して謙虚さは正しい姿勢だ。

パウエル議長はそもそも長らく「インフレを短期的」と言い張り、物価が高騰する中で量的緩和を続けてきた。(※5/28誤記を修正しました)

長らく中央銀行を観察している人間にとって、中央銀行がほぼ常に間違っているというのは経験的事実であり、したがってFedが自分の間違った見通しにそって利上げ方針を示すより、状況によって対応を変えると表明する方が危険が少ない。

一方で、「状況によって対応を変える」というのは要するに2年物国債の金利に織り込まれた市場の金利予想に従って利上げを決めるということである。だが、それならばそもそも政策金利を市場に任せて自由変動させれば良いのであり、結局は以下のジェフリー・ガンドラック氏の主張に帰着する。

はっきり言ってFedがある意味が分からない。Fedは2年物国債の金利で代替可能なのではないか?

景気見通し

だが利上げ動向自体は一番本質的な問題ではない。結局すべてはインフレ率と経済成長率に左右されて決まるからである。

そしてそれら2つの重要指標についてはサマーズ氏は次のように述べる。

ある程度の規模の経済への逆風がなければインフレは落ち着かないというのがわたしの意見だ。例えば失業率は上がらなければならない。

アメリカのインフレの大きな原因の1つが、賃金の高騰である。だからインフレが抑制されるには賃金が抑制されなければならない。

賃金が抑制されれば消費が減るだろう。消費が経ればGDPも企業利益も減り、株価は下がらざるを得ない。

痛みなしにインフレは解決しないという当たり前の論理である。以下の記事で書いたように、それはパウエル議長も暗に認めている。

結論

メディアの完全に間違った妄想に慣れてしまった人がどう思っているかは知らないが、そもそも現在の物価高騰の原因は現金給付と量的緩和と脱炭素政策なのだから、今の経済では人災しか起きていない。

したがって大抵の問題は中央銀行家と政治家を首にするだけで解決することになる。

だがこうした理屈に頭では同意しながら、選挙日には12歳児よりも頭が足りない政治家に投票に行く馬鹿たちのお陰で経済はもう駄目だろう。

サマーズ氏は次のように纏める。

引き続きソフトランディングは想定しづらい未来だというのがわたしの意見だ。ソフトランディングを可能だと考えている人には根拠がない。