マイナード氏、株価の短期上昇予想を修正し弱気転換

債券投資家のスコット・マイナード氏がCNBCのインタビューで、現在の株安相場について語っている。

2022年世界同時株安

Fed(連邦準備制度)がインフレ抑制のために金融引き締めを続けている中、株式市場は下落相場にあり、しかも大した反発もないまま下落を継続している。

通常、下落相場は力強い一時的な反発を織り交ぜながら落ちてゆくことが多く、これほど一辺倒な下落継続は珍しいと言える。

この点についてマイナード氏は次のように述べている。

わたしも驚いている。下落相場のなかの反発はかなり強力なものになりうるはずなのだが、Fedの強硬姿勢を考え、株価は底値を付ける前に年末までにここから更に下がるという弱気のムードを市場は継続しているようだ。

理由はFedが株式市場を支えないという姿勢を明確にしたからだろう。

前回の記事ではゾルタン・ポズサー氏の「中央銀行は株安を目標としている」という見解を紹介した。株安にならなければデフレにならないからだが、その見方が一般的になりつつあるのかもしれない。

以下の記事で紹介したように、事実、パウエル議長も「ソフトランディングのようなものなら可能」という微妙な見解を示しており、金融引き締めが経済にダメージを与えざるを得ないことを暗に認めている。

それが分かっていないのは一部の個人投資家だけである。

ソフトランディングは可能か

果たしてソフトランディングは可能なのだろうか。マイナード氏は今やお馴染みとなったこの質問をされ、お馴染みの答えを返している。

無理だろう。Fedは中立金利が今の水準よりもかなり高いと強く信じている。

われわれの研究によると、中立金利は夏頃にかけて急激に下がると予想され、今年の後半に差し掛かる頃には政策金利は1.75%近辺が適切になるだろう。

だがFedは0.5%利上げを2回すると公言しているから、その水準には7月には到達するだろうし、しかも中立金利は更に高いと彼らは考えている。

だからFedはやり過ぎ、経済は弱まってゆくだろう。

興味深いのは、マイナード氏が1.75%を経済に好影響も悪影響も与えない中立水準だと考えていることだ。

現在のアメリカのインフレ率は8%を超えており、8%に比べれば1.75%はかなり低く、それ単体でインフレを抑制できるとは考えがたい。

しかし株式市場には十分悪影響を与えてしまう水準なので、まず株価が下落しそれがインフレ率に下方圧力を加えるという順番にならざるを得ない。ポズサー氏の論理展開が思い出される。

マイナード氏の弱気転換

だが、マイナード氏のあまりの弱気予想に驚いた人もいるのではないか。何故ならば、マイナード氏は4月に本格的な市場暴落までにはまだ猶予があると発表していたからである。

司会にそれを突かれ、マイナード氏は弱気転換したことを認めた。その理由は何だったかと言えば、中央銀行家たちの話を直接聞いたことだったという。

マイナード氏は次のように説明している。

フーバー研究所で中央銀行家の会合に参加する機会があった。興味深かったのは、中央銀行家たちがどれほどインフレを憂慮しているか、中立金利がどれほど高いと思っているか、インフレを制御するためにどれだけ金利を上げなければならないかについて語っていたことだ。

彼らは金融市場が本当のパニック状態にはなっていないと感じているようで、金融システムにとって本当に脅威になるような何かが起きない限り、彼らが秩序ある株安だと判断する限りは、株価の下落をかなり冷静に見ているようだった。

株式市場を40年間支えてきた金融緩和がもう存在しないことを直接話を聞いて実感したのだろう。

早かった下落開始

筆者はマイナード氏らの短期強気予想を懐疑的に見てはいたものの、株式市場の天井が予想するよりも早かったことは事実である。

去年の段階では、筆者も含めてFedが0.75%(丁度現在の水準である)辺りまで利上げするところが株式市場の天井ではないかという意見が多かった。

実際に2018年には世界同時株安が起きるまで、アメリカ経済は9回の利上げに耐えている。

だから3回程度の利上げで株価が崩壊するという意見も、去年の段階ではかなりの弱気予想だった。だが実際には株式市場は3月の利上げ開始を待たずに天井を付けた。

コロナ後のアメリカ経済の脆弱さをかなり顕著に示していると言えるだろう。

結論

さて、筆者もマイナード氏ほどではないが株安までもう少し猶予があると思っていた一方で、実際に空売りを開始したタイミングは1月の以下の記事である。

何故天井までまだ多少の時間があると思いながら空売りを開始できたかだが、それはS&P 500ではなく、小型株指数のRussell 2000を空売り対象としたからである。

ここでは何度も述べているように、小型株は大型株より先に天井を付け、頭打ちになることが多く、更に農作物などのコモディティを買い持ちにしたことで、インフレが続き株価がある程度上がり続けた場合にもリスクを軽減できると判断したからである。

だから仮にS&P 500がある程度上がり続けた場合にも、そのトレード方法なら利益が出るか、一定期間含み損になっても傷は小さいと判断できたのである。

このように、株価の天井をピンポイントで当てることはプロの投資家にも非常に困難である。実際、2018年の世界同時株安のときも、筆者が空売りを開始したのは天井の数週間前であり、ピンポイントではない。

だが空売り対象を工夫するなどのトレード技術によってそれを補うことができる。今回については、そこが筆者とマイナード氏の差だっただろう。

投資とは本当に難しいものである。インデックスを買い持ちにして家で寝ているだけでお金を儲けられると思っている人には、金融市場で利益を上げるためにプロがどれだけ全力を尽くしているのかという現実をお伝えしたい。お金は降ってこないのである。