ラリー・サマーズ氏: 米国の利上げは困難、ドル高で米国の需要は海外に流出する

米国の元財務長官で著名な経済学者であるラリー・サマーズ氏がCNBCの番組においてFed(連邦準備制度)の金融政策を批判している。

サマーズ氏はいわゆる長期停滞論の提唱者であり、金融業界ではいわば渦中の人である。労働市場の改善を根拠に利上げを正当化するバーナンキ氏らに対し、サマーズ氏は負債の長期サイクルなどから先進国経済は長期の低成長期に入っていると主張する。

著名ヘッジファンドマネージャーのビル・グロス氏(ジャナス・キャピタル)やレイ・ダリオ氏(ブリッジウォーター)などはサマーズ氏の見方に同意しており、その理論を根拠に相場を張っている。わたしもその一人である。サマーズ氏の主張については彼の論文(公式サイトの論文リスト、英語)を直接読むのが一番だが、番組での討論も翻訳しておこうと思う。

4回の利上げは困難

クリントン政権で財務長官を務め、イエレン氏がFedの議長に選ばれる前には議長候補にも名前が上がったサマーズ氏だが、彼は現行の米国の金融政策を率直に批判する。

わたしが一貫して主張している通り、米国経済が4回の利上げに耐えて力強い成長を続け、今後も世界経済を支え続けると考えるのは安全な賭けではない。最近の市場の動きはこれを裏付けるものだ。

これは多くの著名投資家が予想する通りであり、わたしもここで何度も主張してきた。事実、市場は世界同時株安の結果、より少ない回数の利上げを見込むように動いている。

こうした市場の反応についてはサマーズ氏は以下のように述べている。

市場がFedの主張する利上げペースを信じたことはない。Fedはそのことで市場を非難していたが、それは愚かというものだろう。市場は多くの人々のコンセンサスを示すものであり、わたしの意見では市場が懸念を表明することには十分な根拠がある。

利上げができない理由には金融市場の混乱のほかに実体経済に対する彼の弱気な見方がある。

一つの懸念は米国とその他の国の金融政策の方向性が大きく異なることだ。金融政策は通貨の価値に大きな影響を与える。ドル高は米国の需要が海外に流出してゆくことを示すからだ。

ドル高による米国経済の減速についてもわたしの予想と一致している。

ただ、ずっと主張してきたように2016年のキーワードはドル高反転(円安反転とはまた別)であり、ドル高トレンドが弱まれば米国経済の減速もやや軽減される可能性はある。

では実際の為替相場はどうなっているだろうか? ユーロは世界同時株安の間もレンジ相場を続けていたが、最近になってユーロ安ドル高に再び動き始めた。サマーズ氏はユーロドルの動きについてこう述べている。

米国とユーロ圏の金融政策が逆方向に向かい、1ドルが1ユーロに向かうとき、この動きをユーロ圏の需要を刺激する前向きなものと捉えるべきなのか、市場がユーロ圏の経済に不信を抱いていると捉えるべきなのかという議論は面白い。

経済が弱いから金融緩和をし、通貨の価値が下落するというのは一見矛盾のないように見えるが、恐らく彼の議論はもっと複雑な話だろうと思う。

ユーロ圏の量的緩和は、ある意味では米国や日本のものとは別種の深刻な問題を抱えている。それは米国債や日本国債は上昇(金利は低下)したもののバブルとまでは言えないが、スペインやポルトガルの国債は完全にバブルであるということである。

米国や日本の量的緩和は財政破綻の懸念がない(どんな手段を使ってでも国債デフォルトを回避する)先進国の量的緩和だが、ユーロ圏の量的緩和は先進国のQEとジンバブエの財政ファイナンスとの間にあり、投資家がユーロ圏を先進国として見なしている間はいいが、財政に問題がある国が更に通貨を刷ろうとしていると見なされれば、ユーロから大量の資本逃避が起こる危険がある。ユーロ圏は潜在的なリスクを抱えているのである。

市場はまだドルや円やユーロの価値をある程度信じている。しかし市場が中央銀行は緩和から抜け出せないと悟り、通貨の信認が失われるとき、一体何が起こるだろうか? 人々が通貨を捨てて買いに走るものは何だろうか?

2016年のテーマはFedがいつまで利上げを主張していられるかである。彼らが利上げにこだわる理由は明白である。確かに今がアメリカにとって最後のチャンスであり、彼らはそれにすがりつこうとするだろう。しかし長期の経済サイクルを考慮に入れない金融政策は成功しないのである。