ハイテク株の決算後株安はインフレ暴落相場の始まりに過ぎない

さて、2022年第1四半期(1〜3月期)の決算が徐々に発表されているが、同期のGDP速報と同じくなかなか驚くべき数字が出てきている。

当然ながらアメリカ経済と世界の株式市場の今後を占う上で非常に重要なので、フォローしてゆきたい。

ハイテク株の決算

決算の中でも市場で特にニュースになっているのがハイテク株の不調だろう。動画配信のNetflixが利用者数減少となり株価が急落したことは既に伝えている。

まさにナイアガラの滝だが、市場全体にとって重要なのはNetflix利用者減少という事実であり、食料品や家賃の高騰というインフレに苦しむアメリカの消費者がまず娯楽から削り始めている様子が見て取れる。

このように、個別株の決算はトレードしていない株式であっても経済全体へのヒントを含んでいるケースが多く、眺めておく必要がある。

そして投資家にとって更に重要なのはAmazon.comの決算だろう。決算後の株価は14%の急落となった。

Amazon.comはクラウド部門のAmazon Web Serviceが37%の売上高成長率を誇っており、銘柄としては魅力的と言える。

だが先週の記事では次のように書いておいた。

ハイテク株の中には安くなってくると買いたくなる衝動に駆られる銘柄もなくはない。実際、ハイテク株は更に安くなるだろう。やはりグロース株にインフレは大敵である。

だがこのインフレのサイクルが終わるまでは我慢した方が良いだろう。

まったくその通りだったし、インフレはまだ始まったばかりなので、これからもそうである。

Amazon.comの決算が示唆する暴落相場

だが今回の記事で話したいことは銘柄選択についてではない。何故Amazon.comの決算が悪かったかである。

まず売上高は1,164億ドルとなり、前年同期比で7.3%の成長となった。これは前述のAWSの37%成長を含んでいるので、本業の成長率がどれだけ悪かったかということであり、これはアメリカGDPの減速と同じ意味で少し驚異的である。7.3%ではグロース株失格だろう。

市場と経済を破壊する金融引き締めの影響はこれから来るものと思っていたが、アメリカ経済は3月の時点で既に沈み始めている。

物価高によるコスト増も響いた。売上高が79億ドルしか上昇していないのに費用の方は131億ドル増えたので、営業利益は89億ドルから37億ドルに転落した。

インフレは確実に企業利益を侵食している。それを確認できるだけでも決算は見る価値がある。だがAmazon.comの決算で本当に問題なのは純利益の方である。

上記のようにコスト増だけならばまだ利益はプラスだったのだが、ここから更に89億ドルの損失を計上し最終的な純利益はマイナス(つまり純損失)となった。

何故か? それはAmazon.comが行なった電気自動車メーカーRivianへの投資が損失を出したからである。Rivianは去年上場して以来、以下のように推移している。

つまり保有株が損失を出したのである。

保有株の下落が別の株価を下落させる

Rivianには様々な企業が上場前から投資を行なっており、例えばFordもRivianの下落によって損失を出している。

他に著名な上場前からの投資家はSoros Fund Managementであり、現在ソロスファンドを率いているドーン・フィッツパトリック女史はRivian上場前に意味深なことを言っていた。

Rivianは素晴らしい会社だと思う。正直なところ、上場するにあたり評価額がもう少し低ければと思う。そうすれば長期的にバリュー投資として保有していられるのに。

「そうすれば長期的にバリュー投資として保有していられるのに」。これはつまり株価が高過ぎるのでいくらか売るということを示唆している。

そして実際にRivianの株価はこのインフレ相場で高すぎた。筆者はフィッツパトリック氏を非常に評価しているが、流石の相場観と言うべきだろう。ソロスファンドのポジション開示がそろそろあるが、そちらも報じるつもりである。

一方、Amazon.comはソロスファンドとは違ってヘッジファンドではない。保有株が下落すれば下落に巻き込まれ、ヘッジもされず、そのまま決算に反映される。つまり、1つの銘柄の下落がAmazon.comやFordなどの他の株式に波及し、連鎖的に株安が起こるということである。

これは逆に言えば、Rivianの高い評価額はこれまでAmazon.comやFordの株価を押し上げていたということである。

だがインフレ相場ではすべてが逆転する。現在アメリカのインフレ率は8.6%だが、この数字が5年続けば5年後には50%ものインフレになっているということである。

それはつまり将来のキャッシュフローの実質的価値がそれだけ下がるということであり、将来のキャッシュフローを織り込んでいた成長株にとっては大打撃となる。だからインフレはハイテク株にとって天敵なのである。

そして株価の下落はこうした形で他の株式にも波及してゆく。そして前述の押し上げ効果もすべて剥がれ、連鎖的な株価暴落が起きるのである。Nasdaqは既にコロナ前からの上げ幅の半分を失っている。

だがこれは連鎖的暴落相場の始まりに過ぎない。

結論

これは何も今の相場に特有のことではない。株価の上昇と下落とはそういうものである。株価の下落自体がこのように利益の減少をもたらし、利益の減少が株価の下落をもたらし、そして更に利益が減少してゆく。

だから株価収益率などを見ながら「インフレでも米国株は利益を上げているではないか」と考える人は用心した方が良い。下落相場では利益が株価に影響を与えるのではなく、株価が利益に影響を与えるからである。この点は非常に重要であり、単純に株価収益率を見て投資をすることの間違いを明らかにしている。

この連鎖的な下落相場は始まったばかりである。筆者は年始から株式の空売りとコモディティの買いを続けている。

これから市場も経済も酷いことになる。株式に関してはここの読者はもう逃げているだろうから、何も問題はないだろうが。