著名投資家のジョージ・ソロス氏がドイツの週刊ビジネス誌Wirtschaftsのインタビュー(原文ドイツ語)に答えている。恐らくは2016年で最初に公開された彼の論説ということになる。
話題は多岐にわたり、なかなか長いインタビューであるので、話題ごとに記事を分けて紹介したい。先ずはソロス氏が中国経済の先行きや、2015年の中国株の暴落などついて語った箇所から訳していこう。
彼は先ず、中国の重要性について指摘した。
中国はいまだ世界で一番重要な国だ。中国には膨大な外貨準備があり、いまだ投資家たちの熱い支持を得ている。中国政府はこれまでいくつもの障害を乗り越えてきたのだから、何をすべきか既に分かっているはずだ。
彼はこれまでにも、中国の不動産バブル崩壊は不可避だが、中国政府の適切な対応があれば軟着陸可能だと述べてきた。何をすべきか知っている、というのはそういう意味なのだろう。
しかしながら、これらの長所が経済危機を乗り越えるために十分かと聞かれると、次のように懸念を述べた。
残念ながら、中国はいまその膨大な外貨準備を急速に溶かしている。しかも中国政府があまりに多くの間違いを犯したので、投資家からの信頼も揺らぎつつある。銀行や国有企業の大きな負債もある。いまだある投資家の信頼があと3年ほど中国経済を永らえさせるかもしれないが、いずれにせよ中国は最大の試練を迎えている。
中国政府が犯した間違いとは、2015年の中国株暴落の際の規制当局の杜撰で短絡的な対応のことだろう。暴落する株価を押しとどめるため、中国政府は大口投資家による株の一定期間売却禁止などの対策を講じたが、一度入ったら出られないような市場にどのような資金が入ってくるというのだろうか。
しかし3年ほど永らえるというのは、なかなか長いスパンである。個人的には楽観的なものだと感じるが、実際彼はこの目論見を信じて暴落後の中国株に投資をし、中国株はその後反発をしているから流石である。
バブル崩壊は上昇から下落へと転じるタイミングを計るのが難しい。彼は中国経済のバブルを認識しながらも、崩壊はまだだと踏んでいるから投資をしたのだろう。
また、国家主席の習近平氏については以下のように述べた。
習近平は力強い指導者だが、大きな欠点がある。彼は支配することに重点を置きすぎる。経済改革は政治的な譲歩なしには成し得ない。彼は汚職追放を声高に主張しているが、それを政府の支配から独立したメディアなしに行おうとしている。そのようなことが実現するはずがないが、しかし彼がメディアの自由な活動を許すとも思えない。
政治家の汚職を指摘すべきはずのメディアが政治家に支配されているのだから、当然どうにもならないという趣旨である。
インタビューの中国に関する部分は以上だが、数年前に比べて彼の意見が悲観的になってきたように感じる。彼は以前、軟着陸は可能だとはっきり言っていたが、そのような論調はここでは見られない。
ソロス氏はそもそも、バブル抑止のための規制や介入の役割を過大評価する傾向がある。一般には意外かもしれないが、彼自身が規制賛成派だからである。彼は日本のバブル崩壊の以前にも、日本政府が適切な介入によりバブルを軟着陸させると予想していた。バブル崩壊直前の1987年に出版された著書『ソロスの錬金術』で、彼はこのように述べている。
ブラックマンデーの後、日本の当局は証券会社に市場を操作するお墨付きを与えることで市場崩壊を回避した。今後日本がバブル崩壊を避けられるかどうかは非常に興味深い問題である。これが自由市場であれば、バブルはとうに崩壊しているはずだ。
日本の当局は債券市場のバブル崩壊を止めることができなかったが、株式市場のバブル崩壊は止めることができるかもしれない。もし成功すれば、金融市場が公共の利益のために操作される新たな時代の幕開けとなるだろう。
しかし勿論、現実にはそうならなかった。中国に関しても同じ結果になるだろう。彼も今回は分かっているようである。
2016年は巨大な問題があまりに多い。一つは中国であり、もう一つは勿論量的緩和バブルである。