アメリカの消費者はインフレで貯金を削ってものを買い漁っている

アメリカの物価高騰が止まらない。最新のインフレ率は7.9%だが、これは2月のデータなのでウクライナ危機による物価上昇分を含んでいない。

インフレの中、アメリカの消費者はどう行動しているのだろうか? それを分析するために有用な統計の1つが貯蓄率である。

貯蓄率と消費者動向

貯蓄率とは可処分所得のうち消費に使われなかった分の割合である。消費に使われなかった分は貯蓄に回されたり、借金の返済に当てられたりする。

コロナ後の経済の(少なくとも見た目上の)急回復は貯蓄率で説明することが出来る。2020年の春に世界的なロックダウンが行われ、アメリカの消費者は外に出て消費をすることが出来なかったが、莫大な現金給付が行われたため貯蓄に行く分が増えた。つまり貯蓄率が急騰した。

その後、経済が再開するにつれてロックダウン中に使えなかった貯蓄がどんどん使われ始めた。つまり貯蓄率は下がっていった。チャートを見てもらえば分かりやすいだろう。

このチャートはこう言い換えることが出来る。現金給付によって貯金に余裕ができたアメリカの消費者はその貯蓄を消費に回す割合をどんどん増やす(つまり貯蓄に回る割合を減らす)ことで経済を活性化させた。

この意味で貯蓄率は消費者の買い余力であり、その余力を使っている状況が貯蓄率の下落として表れるわけである。そうしてコロナ後の経済は見た目上回復してきた。

だがこのやり方には1つ問題がある。金利と同じように、貯蓄率は永遠には下がり続けられないということである。

貯蓄率は去年の後半には既にコロナ前の水準まで落ちつつあり、そのことについてここでは警告を発しておいた。余力がなくなりかけているということである。

そして現在、状況は更に悪化している。今や貯蓄率はコロナ前の水準を下回っている。

貯蓄率とインフレ

何故アメリカの消費者はそこまでお金を使って消費を急いでいるのだろうか。現在のアメリカ経済の状況を知っていれば、アメリカ人がものを買い急ぐ理由はすぐに思い浮かぶだろう。インフレである。

物価が高騰すると消費者は多少無理をしてでもものを買わなければ同じ生活水準を維持できない。そのためにアメリカ人は貯金を切り詰めて(あるいは貯金に回る分を減らして)消費をしている。あるいは長年保存できるものは今のうちに買っておこうと思うだろう。

日本の読者にはまだ想像しにくいかもしれないが、物価高騰はアメリカの家計にとって既に切迫した問題なのである。そして遠からず日本も同じようになるだろう。

貯蓄が尽きて景気後退へ

アメリカでは1970年の物価高騰時代にも消費者は貯蓄率を下げることで対応した。

物価高騰期に貯蓄率の上昇トレンドが下降トレンドに変わっているのが分かる。

だが当時の貯蓄率は12%前後であり、今の水準は6.4%である。50年の歳月のあと、アメリカ人は貯蓄を使い果たしている。事実、アメリカの中間層には貯金がほとんどない人も珍しくない。

むしろアメリカにはクレジットカードの残高を無意味にリボ払いにする人(筆者が実際に会った人は「今月払わなくていいならその方がいいんじゃない?」と言っていた)がいるので、差し引きで借金を抱えている人が少なくないはずだ。

1970年代にはアメリカ人の貯蓄にはまだまだ余裕があった。しかし今ではその余裕はない。貯蓄率は遠からず限界を迎える。そしてそれ以上切り詰めることが出来なくなったとき、アメリカ経済は景気後退に陥るだろう。早ければ今年、遅くても来年であり、株式市場は当然ながらそれより前に下落する。

結論

こうしてインフレはデフレになる。死ぬ気で消費するか、消費できなくなって死ぬかのどちらかである。

インフレターゲットなどと言っている時代遅れの自称経済学者や中央銀行家はインフレかデフレかなどそもそも問題ではないということに気付いていない。重要なのは実質成長率である。

実質成長率が低くなったとき、政治家が紙幣印刷をすればインフレになり、金融引き締めに追い込まれて株価が暴落すればデフレになる。どちらになっても経済は悲惨である。

こういう状況に追い込まれたのは、現金給付で消費しなくて良いときに無理矢理消費させ、限りある人的資源と天然資源を無駄遣いしたからである。

消費は消費者が消費したいときにするべきであり、政治家が現金給付や紙幣印刷によって消費者がいつ消費するかを決めるべきではない。そのやり方は共産主義である。日本人やアメリカ人は中国やソ連の失敗をそのままなぞって何か楽しいのだろうか。