真珠湾攻撃に言及したゼレンスキー大統領が広島の原爆には言及できない理由

3月23日、ロシアに侵攻されているウクライナの大統領であるウォロディミル・ゼレンスキー氏が日本の国会でリモートにて演説を行った。

アメリカ議会での演説では真珠湾攻撃に言及したゼレンスキー氏だから、日本の演説では何に言及するのかと思って見ていたら、思ったよりも内容が薄かった。そして内容が薄かったことには理由があるので解説してゆきたい。

リメンバー・パールハーバー

日本の国会でリモート演説というのは前例がないことのようだが、この3月23日の日本での演説に先駆けてアメリカ議会で演説し、アメリカの支援を取り付けるためにアメリカ人に次のように語りかけた。

真珠湾を思い出していただきたい(原文:Remember Pearl Harbor)。1941年の酷い朝、アメリカの空はあなたがたを攻撃する飛行機で黒く染まった時のことを。

ただ思い出していただきたい。2001年の9月11日、あの酷い日に悪がアメリカの都市を戦場に変えようとしたことを。

日本の真珠湾攻撃と9.11の同時多発テロを並べて非難し、ロシアから侵攻されている今のウクライナは同じようなものだから支援してくれと訴えかけた。日本はビン・ラディン氏だということである。

日本人の大半はアメリカ人と話したことさえないにもかかわらずアメリカと日本の関係を知ったように思っているから分からないだろうが、この演説はアメリカ人の心を打つだろう。

アメリカ人と本気で政治の話をしたことのある人なら分かるが、日本人とアメリカ人は第2次世界大戦について同意できない。アメリカ人は日本について「あいつらは邪悪だったけどまあ今では反省しているようだから許してやるか」くらいにしか思っていない。アメリカ人は未だに世界中の国で戦争を行いながら、自分に非があるとは全く思っていない。ゼレンスキー氏の演説がアメリカ人の心を打つのも当然のことである。

真珠湾攻撃に言及したことの本質

日本人の一部は真珠湾攻撃を民間人への攻撃ではなかったことなどを理由に、真珠湾攻撃とロシアのウクライナ侵攻とを別ものだとして反発している。しかし本当の問題は、むしろ真珠湾攻撃とウクライナ危機が似通っていることである。

日本が真珠湾攻撃に追い込まれたのは、いわゆるABCD包囲網によって原油などの供給が断たれた状態で日本に無理な条件を飲むように要求されたからである。

アメリカ側は日本がその条件を飲むとは思っていなかった。むしろ無理な要求に激高して日本が開戦することを望んでいた。正確に言えばアメリカ側の要求を書いたいわゆる「ハル・ノート」を日本に渡したコーデル・ハル国務長官のことである。彼は日米が和解することのないように、近衛首相とルーズベルト大統領の会談を阻止している。

大半のアメリカ人はこのハル・ノートの存在も知らずに「日本は邪悪だった」と思っている。彼らは自国の戦争について何も知らない。ウクライナとロシアの歴史的背景も何も知らずにウクライナを支持している日本人は、事実を調べもせずに片方に肩入れすることの危険性を理解してほしい。

現在のロシアの状況

一方で現在ロシアが置かれている状況について何が言えるだろうか。何も知らずにウクライナを支持している陽気な日本人とはいえ、ウクライナで2014年に何が起こったかくらいは知っているはずだろう。

2014年、元々ウクライナには選挙で選ばれた親ロシア政権が居たのだが、これがアメリカやEUに支援された暴力デモ集団によって力づくで追放された。アメリカなどは当時の親ロシア政権が暴力デモ隊の要求に応じなければ制裁すると脅していた。

その後政権は追放され、アメリカの外交官であるビクトリア・ヌーランド氏によって選ばれたヤツェニュク首相による新政権が始まった。アメリカによって新政権の首相が据えられたのである。何故ヌーランド氏が選んだと分かるかと言えば、以下の記事で説明したように、政権から誰々を排除して誰を首相に据えろとヌーランド氏が言っている通話がYoutubeに暴露されたからである。

何故それがロシアにとって問題かと言えば、その後アメリカの傀儡政権(こう言ってもどう考えても間違いではないだろう)がウクライナをNATOに加盟させると言い始めたからである。

それがアメリカの要望だったことは想像に難くない。ウクライナの政権は2014年以後完全にアメリカの言いなりになっている。例えばアメリカのバイデン大統領はかなり個人的な理由でウクライナのビクトル・ショーキン検事総長を解任させている。ショーキン氏の証言を以下の記事で取り上げているが再掲しよう。

当時バイデンは副大統領で、わたしを解任するまでウクライナへの10億ドルの補助金は渡さないと脅していた。

わたしが解任された本当の理由は、わたしがジョー・バイデンの息子であるハンター・バイデンが取締役を勤めていた天然ガス企業であるブリスマ社に対する広範囲な汚職捜査を行なっていたからだ。

このような経緯で2014年以降のウクライナは急速にNATOに傾斜し始めた。NATOはロシアを仮想敵国としており、ウクライナは最後の砦だった。

何故ならば、ウクライナはロシアと国境を接しており、しかも首都モスクワからかなり近い。ロシアが恐れていたのはウクライナがNATOの傘下に入り、モスクワに向けてミサイルが設置されることである。

ベルリンの壁崩壊以後、ロシアとの約束を破ってどんどん東側へ勢力を拡大してきたNATOだが、ロシアはそれを危惧しつつも耐えてきた。だがウクライナにロシア向けのミサイルが置かれることだけは許容できない一線だったのである。当たり前だろう。

ゼレンスキー大統領の核兵器保有発言

ここで話はようやく今のゼレンスキー大統領に戻る。大手メディアの報道ではロシアがいきなりウクライナに攻め込んだかのように報じられているが、引き金となった出来事があったのを何人の読者が知っているだろうか。

2月19日のミュンヘン安全保障会議でゼレンスキー大統領は「ブダペスト覚書」はもはや無効だと宣言した。何故西側のメディアに報じられていないのかまったくの謎だが、これが現在の戦争の直接的な原因である。

マスコミに踊らされて熱狂的にウクライナを支持している日本の人々は、当然ブダペスト覚書のことは知っているだろう。

1994年にハンガリーのブダペストで纏められたブダペスト覚書は、ウクライナに核兵器を放棄させる代わりにアメリカやイギリスにウクライナの安全保障を委ねるという意味の覚書である。ウクライナがこれを「無効」だと宣言することの意味は、ウクライナがその覚書に書かれた義務をもはや負わないというゼレンスキー大統領の宣言である。ゼレンスキー氏の演説内容の原文は英語だが興味のある人は読んでみると良い。

つまり、ゼレンスキー大統領は核兵器の保有を宣言したわけである。

ロシアが侵攻した理由

2014年以降アメリカの傀儡となったウクライナ政権が核ミサイルを保有するとすれば、向けられる先は当然ながらロシアである。

ベルリンの壁崩壊以後クリミア併合までは何も言わずに西側の勢力拡大を黙って見ていたプーチン氏の堪忍袋の緒が切れるのは分かりきっていたはずだ。ウクライナの大統領がそれを知らないはずがない。

ぜレンスキー氏はそれを承知でロシアを核兵器で挑発し、ウクライナ国民を危険に晒した。誰のためかと言えば、バイデン氏の個人的事情のために検事総長を解任したウクライナ政権が誰のために動くかは言うまでもないだろう。

だからゼレンスキー大統領が真珠湾攻撃に言及したのは当然のことである。彼は戦争を誘発する側にいる。だから戦争を誘発してきたアメリカの側の演説をするのは当然のことである。

一方で戦争に追い込まれた当時の日本や現在のロシアのことは一切理解していない。だから「制裁に参加してくれてアリガトウ」くらいしか言えないのである。ウクライナにとって日本は「制裁してくれれば便利な国」程度でしかない。

結論

彼らは追い込まれる側の立場を理解していない。自分たちが他人の安全保障を脅かしていることを理解していない。彼らとはゼレンスキー氏やNATOのことである。この両者は同じもので、彼らが加害者であり、ウクライナ国民は被害者である。ゼレンスキー氏とウクライナ国民を同一視してはいけない。

客観的に見ればどう考えてもNATOに非があるので、アメリカの共和党議員の中にも「NATOのせいでは?」と言い始めた人がいるが、以下の記事に書いたようにペンス元副大統領に黙らされている。

彼らにとって自分たちが善で、相手は悪なのである。しかし自分たちの悪行については完全に意識の外である。

読者に言いたいのは、大手メディアに惑わされずに自分で調べてほしいということである。ウクライナについて意見を持つためには、少なくとも2014年の暴動やブダペスト覚書やビクトリア・ヌーランド氏については知っておく必要がある。

ちなみに日本でのゼレンスキー大統領の演説においては「スタンディングオベーション(約1分)」が予定に入っていたらしい。ゼレンスキー氏は正義なので、正義の演説には1分間のスタンディングオベーションをしなければならないということだろう。

日本の公安調査庁のホームページに名指しでネオナチ指定されているウクライナ国家親衛隊のアゾフ連隊など、ロシア側の言い分が一切報道されないことも含め、ウクライナに対する日本や西側の情報統制が完全に戦時のモードなので筆者はかなり引いている。ゼレンスキー氏支持は狂気的である。