正論だが、それを行えば株式市場は本当にどうにかなってしまうだろう。アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでアメリカのインフレと利上げについて語っている。
利上げはどれだけ必要か
アメリカでの広範な物価高騰を受け、中央銀行であるFed(連邦準備制度)はようやく利上げを開始した。
だがインフレ率が7.9%である状況で、政策金利を年末にようやく2%に達するかどうかという水準に上げる方針は、筆者や著名投資家からむしろ「緩和的」な利上げだと見なされている。
Fedがそのような利上げで十分だと主張するために彼らが挙げている根拠には色々な数字があり、サマーズ氏はそれについてコメントしている。
Fedはインフレが長期的に2%になると推定しており、中立な金利水準は2.4%だという。だから政策金利を中立水準より高い2.7%まで上げるのだと発表して自賛している。
彼らの計算の問題は、インフレ率が2%に下がると推定しながらそう信じる根拠を挙げていないことだ。
要するに、中央銀行の言い分はインフレ率は現在の7.9%から2%に勝手に戻り、経済にとって中立な金利は2.4%なのだから、金利を最終的に2.7%まで上げればそれは引き締め的だということである。
サマーズ氏は次のようにFedの希望的観測を現実的な言葉で言い直す。
もっとシンプルで直接的な言い方に直すとこうなる。インフレが上がり、金利を同じだけ上げるならば、インフレ率を差し引いた実質金利は全く変わっていないということだ。
インフレと実質金利
経済学を知らない人々には分かりづらいかもしれないが、インフレ対策で金融政策を引き締めるならば、政策金利の絶対値ではなくインフレ率を差し引いた実質金利を上昇させなければならない。
現状のアメリカのインフレ率と金利を考えてもらいたい。日用品や電力価格が高騰し、不動産などは2桁の上昇率を記録している。
消費者にとって、何もせずに状況を眺めていればインフレはどんどん酷くなる。
だがこの状況で金利が2%であれば、ローンを組むことにより2%の金利を支払って10%以上上昇している不動産を買うことが出来る。金利が仮に3%でも4%でも元が取れてしまうのである。
これが「インフレに対して今の利上げが緩和的」であることの意味である。金利が低ければ誰でも借金して住宅を買うだろう。
だから金融政策が引き締め的かどうかは実質金利で考える必要がある。実質金利は名目の金利からインフレ率を引いたものなので、インフレ率が上がるとそれだけで実質金利は下がる。
だからインフレ分を差し引いても尚引き締め的になるために、次のようにしなければならないとサマーズ氏は言う。
金融政策を引き締めたければ、金利をインフレ率が上がった以上に上げなければならない。
アメリカのインフレ率は元々2%だった。今やインフレ率は6%か、指標によっては8%だから、金利は少なくとも4%以上上げなければならないということになる。
これは2018年に世界同時株安を引き起こした2.5%の利上げを大きく上回る。
だがサマーズ氏は更に恐ろしいことを言う。
それでようやく中立になるのだから、本来必要な利上げは恐らくそれ以上だ。
結論
2022年の株価暴落はもはや変えられない宿命と言っても良いものだが、最近の米国株の反発はそれを気にも留めていない様子である。チャートを掲載しよう。
これはジム・ロジャーズ氏らの予想した通りの動きである。
ロジャーズ氏の意見が正しければ、ウクライナ情勢が落ち着くことでこの反発は更に続く可能性がある。
だが長年の投資家としての経験から言えば、どれほど大きな下げ相場でも通常一度は逃げ場が来るものである。以下の記事で書いたように、リーマンショックでさえ買い方が逃げるタイミングはあった。だが誰も逃げなかったのである。
2018年の世界同時株安の天井直前に書いたことをもう一度思い出す時が来たのではないか。
いずれにしても、重要なのは短期的な値動きではなく、ここが大天井であるという相場観が当たるかどうかである。
だが今回の暴落を予想することは当時よりもよほど簡単である。インフレはもうどうにもならないからである。