2016年の相場については話すべきことが多いが、先ずは一番重要な原油価格の見通しからである。原油価格の長期チャートは現在このようになっている。
原油価格はいずれ反発するが、個人的にはまだ底値ではないと考えている。米国ジャンク債の暴落は反発までの第一歩だが、実際に反発するまでにはまだ幾つかのプロセスを経なければならない。この記事では原油反発までのシナリオを順を追って説明してゆきたい。
原油安の原因
まずは現状を整理しよう。原油安の原因は主に供給側にある。米国のシェール革命で地中奥深くに埋まっている原油を掘削できるようになったこと、イランの原油輸出に対する経済制裁の解除が決定されたこと、そしてそうした原油の世界的な供給増に対し、サウジアラビアなどOPEC諸国が減産によって価格を支えることを渋っていることなどが原因として挙げられる。
原油安の原因が取り除かれるためには、こうした供給過剰が解消されなければならない。では供給過剰は何処から解消されるか? 答えはOPEC側ではなく、米国のシェール産業ということになる。
シェール産業の現状
原油安は米国のシェール関連企業にどのような影響を与えているだろうか? 先ず考えるべきは、シェールオイルの産出は高コストであるということである。通常掘り出せない地点にある原油を掘り出す技術がシェール革命であるから、掘れば勝手に湧き出てくる通常の原油よりも産出コストが高い。
これがOPEC諸国が強気でいられる理由である。原油安が進めば、淘汰されるのは米国シェール産業であり、従来の掘削を行うOPEC諸国ではない。では米国シェール産業の淘汰はどのように進んでゆくのか?
原油価格の下落は原油産出企業を徐々に蝕んでゆくが、それには段階がある。先ず、30ドル台という原油価格が、米国シェール産業の損益分岐点、つまり新規参入して採算の取れる水準を下回っていることは間違いない。すなわち、新たな業者が参入してきて原油の生産を増やすということはない。
しかし、それでも既存の企業はシェールオイルを掘り続けている。何故か? それは彼らが既に設備に投資してしまったからである。設備を既に持っている以上、あとは掘るだけであるので、原油価格が産出そのもののコスト(操業停止点)を下回らないかぎり、供給過剰に気づきながらも産出を止めることができない。これが現状である。
倒産寸前のシェール関連企業
シェール産業の操業停止点は思いの外低いようである。原油価格が30ドル台になっても生産量はさほど減っていない。リグ数を減らして効率の良い油田に専念している会社もあり、生き残りのためにありとあらゆるコスト削減手段を取っている様子が伺える。
そもそも、供給過剰による原油安の状況で効率の良い油田を掘り進めなければならないというのは、企業にとっても長期的にはマイナスである。それでもそうしなければならないのは、シェール企業の資金繰りが深刻に悪化しており、そうしなければ倒産するからである。
コストの高いシェール企業のほとんどは既に赤字決算に陥っているが、これは無理な産出をした結果赤字になっているのではなく、産出事業自体は黒字になっている(だから産出している)が、借金して作った事前の費用(先行投資)が重しになっているのである。
これはシェール産業への投資が行われた時に、原油価格を100ドル前後と想定して調達した資金が、原油安のために返せなくなっているのである。以前報じたように、結果としてこれら信用の低いジャンク債が暴落している。
原油反発までの見通し
しかしながら、シェールオイル産出企業が倒産したからといって、その企業の行っていた産出がすべて停止されるわけではない。倒産した(あるいは倒産寸前の)企業の資産を他の企業が買い上げるからである。企業自体が借金で破綻しても、油田とリグがある限り、それを引き継ぐ企業がある。このようにして、シェール業界では合併が進んでいるのである。
とはいえ、資金に比較的余裕のある企業に買収された油田は、現在の原油安の状況では温存される可能性が相対的に上がる。倒産が増えれば休止される設備が増えてくるだろう。これが原油反発の第一要因である。
一方で、もう一つのシナリオは、原油価格がシェール産業の大部分にとっての操業停止点に達することである。シェール関連企業の決算を虱潰しに調べた感触では、主な企業は原油が30ドル台でもコストを削減して産出を続けており、したがって20ドル前後まで下がらなければ、主なシェール企業の操業停止点には到達しないのではないかと感じている。
倒産が早いか20ドル到達が早いか
シェール企業の決算を見る限り、比較的規模の大きな会社にはまだ1年以上の資金の余裕がある。小さな会社は死に体であるが、原油供給に影響を持つのは規模の大きい企業のほうである。また、小さな会社は破綻しても買収されるだろう。
したがって、個人的には原油は30ドルを割って下値を試すのではないかと思っている。そうなれば、今はまだ余裕のあるシェール関連企業も寿命が縮まってゆく。恐らくはそのようにして淘汰が進み、その後にようやく原油価格は反発に向かうのだろう。
原油はいつ反発するか?
これらのシナリオが実現するのはいつだろうか? シェール産業の再編にはまだ時間がかかるが、原油安が進むのに2016年をすべて費やすということはないだろう。問題は原油が20ドル台に到達してからシェール産業の淘汰が進むまでの時間であり、これは大雑把な予測でしかないが、2016年の後半から2017年の前半にかけて原油は底値を迎えるのではないかと予想している。
これは奇しくも米国が利上げの限界を迎えるとわたしが予想している時期に一致している。そうすればドル安と原油高が一気に来ることになる。日本とユーロ圏は悲鳴を上げることになるだろう。米国が利上げから利下げに転じるとき、日本とユーロ圏はさらなる緩和を余儀なくされる。それが量的緩和相場の終わりの合図であり、ブラックマンデーの再来となるだろう。