マイナード氏: 利上げで株式市場は2018年と同じ株価暴落へ

Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏がBloomergのインタビューでいよいよ始まったFed(連邦準備制度)の利上げについて語っている。

インフレで利上げ開始

アメリカの利上げがついに始まった。

年内に政策金利を2%まで上げると表明したわけだが、これは株式市場に対しては強すぎ、インフレに対しては弱すぎる利上げ速度である。つまり、中央銀行はインフレを殺さずに株式市場を殺してしまうだろう。

Fedのこの方針に対して債券と金利の専門家であるマイナード氏は、中央銀行のアプローチがそもそも間違っていると言う。彼は次のように述べている。

「インフレはいつでも貨幣現象だ」というのがミルトン・フリードマンの言葉だ。

金融市場は中央銀行に支配されずに自由に動くべきだと強く信じている。Fedは物価安定だけにフォーカスすべきで、それはマネーサプライとバランスシートを制御することで行われる。金利については翌日物を含めて自由に上下させるべきだ。

大雑把に言えば、マネーサプライとは企業や消費者が銀行に持っている現金の残高の合計で、バランスシート(マネタリーベース)とは銀行が中央銀行の口座に持っている現金の残高である。

マネタリストと呼ばれる経済学者のフリードマン氏はインフレはマネーサプライの影響が大きいとしている。

また彼は「強欲な企業」が「環境問題」などを引き起こしているとする現代のアメリカ民主党的なリベラリズムを否定し、むしろ政府の介入が貧困や戦争を生んでいると主張するリバタリアンである。

インフレとマネーサプライ

インフレの原因はマネーサプライかどうかについて考えてみよう。事実、リーマン・ショック後にどれだけ紙幣を印刷しても物価高騰が起きなかった一方で、今回コロナ後に物価高騰が起きた理由はマネーサプライである。リーマン・ショック後のマネーサプライの増加率を見れば一目瞭然である。

マネーサプライとは「消費者が銀行に持つ預金残高」だから、銀行口座に直接現金を送り込む現金給付がマネーサプライを爆発的に上昇させたことは明らかである。そしてそれがインフレを生んだ。それがこれまでの量的緩和だけの緩和策との違いである。

インフレが世界的な問題になっている中、選挙対策で高齢者に現金給付すると言っている日本の政治家と、それを支持する更に愚かな国民のことは置いておくとしても、マイナード氏はフリードマン氏の議論を継承し、現在のアメリカの物価高騰を止めるためにはマネーサプライを制限すべきだと言う。

マネーサプライの増加さえ止めれば、1940年代に経験したように、インフレ率は20%から2年でマイナスになった。当時行われたことは、バランスシートの拡大を止めただけだ。

マイナード氏は1945年の終戦から1950年にかけてのインフレ率の劇的な低下について言っているのだろう。

この時期には確かにインフレ率は劇的に下がっているが、戦後のことであり、例えばウクライナ情勢が落ち着けば原油や小麦などの価格も落ち着くのとある程度は同じではないだろうか。

1979年ボルカーショック

一方で、マイナード氏の議論を補足するには1970年代から80年代の物価高騰を考えるべきではないだろうか。

1979年の物価高騰時にFed議長に就任したポール・ボルカー氏は政策金利を自由に推移させ、マネーサプライを徐々に引き締める政策を取ることによって大規模な景気後退と引き換えに2桁のインフレを収束させた。マイナード氏が何故1940年代に言及してこの例を引かなかったのかは分からないが、彼が主張しているのはこのボルカー氏の政策である。

しかしFedは金利を自分で操作し、株価を下落させずにインフレだけを退治する魔法のような水準を見つけられると信じているようなものである。だがそんな水準は存在しない。政治家の利害のために政策金利をゼロに固定して物価高騰の大惨事を招く前に、金利を自由に上昇させて低金利を自然に解消するべきだったのである。

マイナード氏は次のように語る。

金利を調整しバランスシート縮小について語るだけでは、2018年後半にFedが同じことをしようとして起きたような事故に繋がるだろう。

ここの読者には説明不要かもしれないが、マイナード氏は当然ながらFedが現在と同じ利上げと量的引き締めを行なって市場を暴落させた2018年の世界同時株安のことを言っている。

結論

2018年にもここでは利上げと量的引き締めが株価暴落を引き起こすと筆者が暴落前から主張していたのを読者は覚えているだろう。

金融緩和で上がってきた株式市場が金融引き締めで下落するのは当たり前ではないだろうか。多くの投資家はそんなことさえ分からないのだろうか。

しかし興味深いのは、1940年、1980年と、アメリカでは40年単位で20%前後の物価高騰が起きているということである。そして更に40年後の現在のインフレは、筆者の見立てでは同じように20%まで突っ込んでゆくだろう。

そして金融庁や銀行業界などに騙され、こんなタイミングで投資信託で米国株に投資しようと思った人が少なくないはずだが、40年という物価高騰サイクルを考えるとこれほど見事なタイミングで米国株に突っ込んでくるというのはなかなか出来ることではない。

だが上昇相場の終わりにはいつもそうした人々が現れ、相場の頂点を見事に指し示してくれる。バスに最後に乗り込んでくる人が乗り込み終わったら、もうそれ以上バスに乗ってくる人はいないからである。そうすれば株価はもう上がらない。そこが天井である。

こういう人々の逆指標としての能力は、筆者の投資能力よりも高い。彼らは市場そのものだからだ。