あるいはその両方だろう。世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がPOLITICOの主催するラリー・サマーズ氏との対談でアメリカのインフレと株式市場の見通しについて語っている。
アメリカの物価高騰
アメリカの消費者にとって物価高騰は既に生活の問題である。アメリカではガソリンだけではなくあらゆるものの価格が既に上がっている。
物価が上がる、上がるから先に買う、そして価格がもっと上がるというインフレサイクルが始まっているのである。
それに対して「物価安定」を目標とするFed(連邦準備制度)は何をやっていたか? 去年の末にようやく間違いを認めるまでインフレの状況下で金融緩和を続けていたが、その時にはインフレ率は既に6%まで上がっていた。
これはどういう原因によるものだろうか。2020年、新型コロナ対策でアメリカなど多くの国は強力なロックダウンを行い、景気は瞬間風速的に急激に落ちたが、それは長期的な景気後退には繋がらなかった。
現金給付で無理矢理に消費者の消費を喚起したからである。だが紙幣印刷は当然のようにインフレを引き起こし、それは住宅バブルなどに火をつけて持続的なものとなった。もはや現金給付は行われていないが、インフレは続いている。
アメリカ人は住宅をこぞって買っているし、米国企業は原油や小麦など金融市場で値段が高騰しているものを更に高騰するまえに買ってしまおうとしている。
そうした資金の少なくない部分は住宅ローンなど借りられたお金である。だからこのインフレを止めるためには中央銀行は金利を上げ、人々がお金を借りにくくする必要がある。
それでFedは利上げなどの金融引き締めを行おうとしているのである。
利上げのもたらす結果
利上げをして、それでインフレが収まり、それだけだろうか。しかしこれまで低金利で支えられてきた株式市場のことを思い出したい。ダリオ氏は次のように語っている。
インフレを十分に抑えられる高金利は金融市場と実体経済にとって高過ぎる。
株式市場も実体経済もこれまで低金利に頼りすぎてきたのである。「インフレにならない限りいくらでも紙幣印刷できる」を合言葉にしていた人々は、今頃デフレの有難さを噛み締めているだろう。デフレだったからいくらでも紙幣印刷出来たのである。
しかし実際、利上げはどこまで行われるのだろうか? 今後の利上げ予想を織り込んで推移する2年物国債の金利を見てみよう。
ウクライナ危機で少し足踏みしたが、ウクライナ問題はむしろインフレを悪化させるとの見方から金利は更に上昇し、2%まで上がっている。この水準は2018年の世界同時株安を引き起こした利上げの水準に近い。
それで株式市場が大慌てしているのである。米国株は次のように推移している。
インフレ抑制のためにどれだけ利上げが必要か
しかしよく考えてほしいのだが、市場が大騒ぎしている2%の金利はインフレに効くのだろうか。
ダリオ氏は次のように述べる。
相場が織り込んでいる利上げは政策金利が2%程度まで上がるというものだ。だがインフレがこれから5%になるとしても、それに対して金利が2%だというのは深刻な問題だ。
筆者も前から何度も言っているが、現在7.9%(筆者がインフレについて書く度にどんどん上がっていっている)のアメリカのインフレ率に対して金利を高々2%まで上げたところで、インフレに対して何の意味があると言うのだろう。
金利が2%だとしてもものの値段が7%で上がるのならば、消費者や企業はやはり借金をして金利を払ってでも値段が上がる前にものを買いたいのではないか。それがインフレと金利の実際の関係である。
今後も悪化するインフレ
つまり、インフレはどんどん悪化する。現在の7.9%という数字は通過点に過ぎない。
しかしその通過点に過ぎないインフレ率でも抑制するために必要な利上げ幅は相当なものになるだろう。過去にアメリカで6%のインフレを抑えるためにどれだけの利上げが必要だったかについては以下の記事に書いてある。
つまり、中央銀行が現在の「緩和的な」利上げ姿勢を続ける限り、アメリカのインフレは最終的にジンバブエのようになってゆく。
それは政治的に許容できないので、Fedは何処かの時点で更に強力な利上げ姿勢を表明せざるを得ないだろう。しかし2%の利上げでも悲鳴を上げている株式市場は、それ以上の金融引き締めが発表されたときどうなってしまうのだろう? 何度も言うが、2022年の株式市場は詰んでいるのである。
結論
もうこの話は著名投資家の中では去年から分かっていた話であり、ここの読者にとっては当たり前の結果でしかないので、あまり新鮮には響かないだろう。これから起こる株価暴落も、大してニュースではない。一部の人々はこれまでの株価下落で驚いているかもしれないが、まだ何も始まってすらいない。
現金給付や脱炭素政策によって作り出されたインフレは避けられた人災である。特に以下のガンドラック氏の中央銀行批判など日付を見てほしい。現在の状況はいつから明らかだっただろうか。
避けることは出来たはずの悲劇に人間はいつも自分から突っ込んでゆく。人生楽しそうである。
ダリオ氏の対話相手で経済学者のサマーズ氏もダリオ氏の見解に同意し、次のように上手く纏めている。
インフレを抑えることは出来るが、そうすれば実体経済と金融市場は駄目になる。あるいは実体経済を守ることは出来るが、インフレ率はもう2%には戻らないだろう。
また、この株価暴落とインフレの2択という現実は、要するに株価暴落とドル暴落の2択ということである。インフレとは貨幣価値下落であり、それはドルの下落を意味するからである。
これは米国株に投資する外国の(アメリカ以外の)投資家にとって死の宣告に等しい。ドルが死んでも株価が死んでもその人の投資は死ぬからである。
そう言えばこの状況は1987年のブラックマンデーに似ているのではないか。