アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がGood Morning Americaのインタビューで、先日発表されたアメリカの記録的なインフレ率にコメントしている。
40年来のインフレ
前回の記事で取り上げたが、アメリカの2月のCPI(消費者物価指数)が発表され、インフレ率は40年来の水準である7.9%となった。
この記事では筆者はインフレはここでは止まらず、インフレ率は更に上がると書いたが、サマーズ氏も同意見のようである。彼は次のように述べている。
今後数ヶ月でインフレ率は更に悪化するだろう。ウクライナでの戦争が終わればそれは良いことだろうが、今後人々は数年物価上昇とともに生活することになる。そして経済成長もこれまでの水準からいくらか減速するだろう。
状況は今や現金給付による短期的なインフレから、住宅バブルや原油バブルという「上がるから先に買う」インフレスパイラルに陥っている。
そしてアメリカの消費者の購買意欲を支えているのが中央銀行の設定している低金利である。
インフレが7.9%である中でアメリカの政策金利がいまだ0%というのが信じられるだろうか? 誰でもお金を借りて価格が上昇する前にものを買おうとするだろう。
こうした状況を受け、Fed(連邦準備制度)は16日にFOMC会合でコロナ後初の利上げを行おうとしている。この会合で中央銀行がすべきことについて、サマーズ氏は次のように注文を付けている。
利上げを行い、利上げを更に行うことを表明し、インフレ抑制が最重要事項だというメッセージを出さなければならない。
彼らは金融引き締めにもっと早く動くべきだったということを認識すべきだ。それをコロナのせいにしたり、戦争のせいにしたりするべきではないし、民主党政権は「企業の強欲さ」のせいだなどと言うべきではない。
民主党の政治家は、自分で行なった現金給付がインフレに火を点けたにもかかわらず、「インフレは企業の強欲さのせいだ」などと根拠不明な供述をしている。
彼らは同じ口でプーチン大統領の「ウクライナ政権はネオナチ」発言を根拠のないデマだと主張したが、以下の記事に書いた通りウクライナ国家親衛隊には日本の公安調査庁にネオナチ認定されている部隊が確かに存在する。
ソースへのリンクも張ってあるので読んでみてほしい。西洋の政治家の言うことは基本的に何も信じてはいけないのである。
ウクライナ危機とインフレ
一方、ウクライナ問題で小麦など一部のコモディティ価格が高騰しており、サマーズ氏はそうした要因にインフレになった本当の原因が隠されてしまうのではないかという懸念をしていた。
筆者は流石に人々もそこまで馬鹿ではないだろうと思っていたのだが、現にハリス副大統領などアメリカの政治家からインフレはロシアのせいだ、ロシアを懲らしめるためには仕方のないことだという論調が出てきている。
彼らは自分の責任から逃れることには本当に全力を尽くすことが出来る。清々しいほどである。そもそもウクライナが犠牲となったこの戦争も発端はアメリカではないか。
だがアメリカの政治家の邪悪さを今更論じても仕方がない。
運転のコストは低い?
ウクライナ問題でアメリカの消費者が一番気にしていることはガソリン価格高騰である。ロシアが産油国であり、アメリカがロシアからのエネルギー資源の禁輸を発表したため、原油価格が高騰しているのである。
アメリカでは国土が広大なため公共交通機関が発達しておらず、車社会である。ロサンゼルスなどは車がなければ生活も出来ない。だからガソリン価格の高騰はアメリカ人にとって死活問題なのだが、サマーズ氏は意外なことを口走っている。
車の燃費は年々向上しているという事実を差し引いて考えると、運転のコスト、日々の通勤のコストは例えばオバマ大統領が再選した2012年よりも低くなっている。
これはただの事実だ。価格が急騰して人々は狼狽しており、それも当然だが、別の見方をしてみるのも助けになる。
原油価格の長期チャートを貼ってみよう。
サマーズ氏の言う通り、今の水準は2012年の水準とほぼ変わっていない。更に言えば、2008年の高値よりかなり安い。
このチャートと、車の燃費は年々向上しているということを考えれば、消費者の負担は歴史的水準と比べて確かに極端に大きいわけではないのである。
原油高騰は株安の原因ではない
サマーズ氏が指摘した事実と株式市場の現状を重ねて考えてみると、現在の株安の原因が原油価格高騰ではないということが分かる。
今よりも消費者の負担の大きい2012年前後に原油価格を原因とする株安は起きなかったし、そもそも2008年には原油価格が150ドル付近に達するまで株価は上がり続けた。
更に言えば、戦争が株安の原因にならないことは以下の記事で検証した通りである。
だが米国株のチャートは現在以下のようになっている。
つまり、米国株が現在下落している理由は戦争でも原油価格高騰でもなく別のもの、つまり元々存在していたインフレと、それを抑制するための金融引き締めが株価を襲っているということに過ぎない。年始の記事に書いた通りである。
そうでなければ、2012年前後に原油価格を原因とした株安が起きなかったこと、ベトナム戦争で株安が起きていないことの説明が出来ないだろう。
結論
メディアや政治家の言っていることは相変わらず無茶苦茶である。ウクライナで戦争を始めたのはアメリカであり、株安とウクライナは無関係で、株安の本当の原因であるインフレを引き起こしたのは愚かな政治家自身と彼らを支持した有権者である。
しかし何故人々は大手メディアを信じるのだろうか? 彼らの言っていることが正しかったことなどこれまでほとんど無かっただろう。特にイラクに大量破壊兵器があると主張したアメリカの政治家の言うことを無条件で信じている馬鹿たちの思考回路は本当に分からない。