プーチン大統領がウクライナ政権をネオナチ呼ばわりして西側諸国の顰蹙を買っているが、西洋で人気の「ファクトチェック」なるものをここでもやってみようではないか。
ウクライナ国家親衛隊
ウクライナ政府には2つの軍組織が存在する。1つはウクライナ大統領が最高司令官を務めるウクライナ軍(Armed Forces of Ukraine)であり、もう1つは内務省に所属するウクライナ国家親衛隊(National Guard of Ukraine)である。
何故2つも軍があるのかが日本人には分かりにくいかもしれないが、ウクライナ軍は国外での任務も行う普通の意味での軍であるのに対し、ウクライナ国家親衛隊は国内での軍事行動を任務としている。
「国内での軍事行動」というのも日本人には馴染みがないだろうが、ウクライナでは2014年に当時の親ロシア派のウクライナ政権が暴力デモ集団によって追放され、ロシアはこれを違法なクーデター(事実だろう)と非難、ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国として独立宣言したウクライナ東部を支援し、クリミアを併合することで対応した。
ちなみにこの2014年のクーデターで欧米諸国は当時の親ロシア派ウクライナ政権が暴力デモ集団の要求を受け入れるよう制裁で脅すなどの支援をしているほか、アメリカの外交官であるビクトリア・ヌーランド氏がウクライナ新政権の人選について話し合っている音声がYoutubeに暴露されるなどしている。
こういう状況で(新)ウクライナ政権は2014年から独立宣言した東部との戦闘状態に陥っており、ウクライナ国家親衛隊はこの状況を受けて創設されたものである。つまり、ウクライナ国家親衛隊が担う「国内での軍事行動」とはウクライナ東部との戦闘を意味する。
アゾフ連隊
さて、このウクライナ国家親衛隊にはアゾフ連隊という部隊が存在する。世界的にはアゾフ大隊の名前で知られているが、ウクライナ政府はこれを後に連隊に昇格させている。
このアゾフ連隊の出自は日本人にはなかなか理解しづらいだろう。日本で治安悪化と言えばスリなどを行う犯罪者や、せいぜいが不良やヤクザであり、彼らが軍を組織してあまつさえ自衛隊に合流するなどということは有り得ない。しかしアゾフ連隊はそういう出自を持っている。
アゾフ連隊は元々ウクライナの都市ハルキウのサッカークラブの熱狂的なサポーターの集まりだった。
サッカーファンが何故軍になるのかという時点で突っ込みどころが満載だが、ヨーロッパのしかも治安が良くない国におけるサッカーのサポーターを、日本で見られるようなサッカーファンと一緒にしてはならない。
サッカーチームの暴力的なサポーターということに関しては、日本人には恐らくフーリガンの名でよく知られているだろう。サッカーは欧米では労働者階級の憂さ晴らしという側面があり、試合にかこつけて会場の内外で暴れたり、外国人の選手に差別的な言動をぶつける人々は日本でもニュースで目にするかもしれない。
ヨーロッパで不良やならず者が信奉するのが暴力行為のほかに白人至上主義やナチズムである。ウクライナの場合、住民にウクライナ系とロシア系がいるので、ウクライナのフーリガンはロシア系住民を排斥する民族主義に繋がりやすい。
ウクライナ分離で水を得た魚
フーリガンと極右思想との繋がりはアゾフ連隊に限ったことではなくアメリカやイギリスなどでも見られるが、ウクライナの場合、2014年にウクライナが分断され、新ウクライナ政府がロシア系の東部と戦闘に陥ったことでネオナチのならず者たちは格好の活躍の場を得た。もう暴力衝動を発散させるための場にサッカー場は必要ないということである。
ロシア系の人々を相手に暴力的な衝動を発散させたいアゾフ連隊と、ロシアに支援されたウクライナ東部を攻撃したい新ウクライナ政府の利害は合致し、アゾフ連隊はウクライナ国家親衛隊に組み入れられた。
その後のアゾフ連隊の振る舞いは、彼らが元々どういう人々かを考えれば明らかだろう。OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)の報告にいくつか例がある。
ウクライナの軍隊とアゾフ連隊は民間人を立ち退かせて民間の建物を広く使用しており、そこでは民間人の財産の略奪が行われている。
あるいは以下のものである。
アゾフ大隊やドンバス大隊(訳注:こちらもウクライナ国家親衛隊である)のメンバー8名から10名程度によって精神障害者の男性が性暴力などの虐待を受けた。
これらの報告書には他にもこのアゾフ連隊がどういう目的で戦闘行為をしているのかが分かる行動が報告されている。
こうした報告は日付通り何年も前のものだが、ウクライナ東部は当時からこういう状況だったということだ。ロシアの「ロシア系住民保護」という名目は、少なくとも政府側の人間のこうした行為に向けられている。
また、これらの報告を呼んでもウクライナ政府下のアゾフ連隊がただの暴力集団でネオナチとは関係がないのではないかと思う人々には、日本の公安調査庁がアゾフ連隊について書いているページを引用しておこう。
2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる。
「ネオナチ」としっかり書かれている。
(4/14追記:日本の公安調査庁、ウクライナ国家親衛隊のアゾフ連隊がネオナチであるという記述をホームページから削除)
結論
ロシアやウクライナ東部と戦っているウクライナ政府にどういう人間が含まれているのかを、日本人は知っているだろうか。
アゾフ連隊はウクライナ国家親衛隊の一部に過ぎないと言うことも出来るだろうが、完全なネオナチ組織を自軍に組み込んで連隊に昇格させている時点で現ウクライナ政権の思考はかなりおかしい上に、政府下の人間が実際にネオナチ思想に基づいてウクライナ東部の人間に危害を加えているのだから言い訳のし様がないだろう。
以下の記事で報じたように、2014年にアメリカの傀儡となったウクライナ政権をオバマ政権下でバイデン現大統領が良いように使っていたことも含め、この件で西側のことを調べれば調べるほどきな臭いことがいくらでも出てくる。
ロシアの戦争行為を正当化するわけではない。しかしロシア側の主張には少なからぬ事実が含まれており、日本を含む西側の報道ではそれが一切黙殺されている。そして完全にコントロールされた偏向報道を西側の人々は「報道の自由」だと信じている。
こういう人々は躊躇なくシリアにミサイルを打ち込んだアメリカ人のように、大手メディアの偏向報道を論拠に戦争が行われれば簡単に戦争支持をするだろう。そしてそれこそが戦争の原因だということを彼らが理解することはない。
ロシアのプーチン大統領は西側諸国の大手メディアに頭をやられた人々に頭の病気を心配されているが、何も事実を知らず、事実を調べもせずに、ただメディアに踊らされて異国に敵愾心を向ける日本や西洋の人々は確かに頭の病気ではないのかもしれない。それが人間の平常運転だからである。