以前述べた通り株式市場にはほとんど影響を及ぼしていないロシアのウクライナ侵攻だが、エネルギー資源や金属、農作物などのコモディティ市場への影響は大きくなっている。
そこで各コモディティ銘柄のチャートの現状を再確認するとともに、筆者の保有するコモディティ買いポジションの今後について書きたい。
2022年コモディティの買い
まずそもそも、ウクライナがなくとも2022年はコモディティの年だった。コロナ後に世界中で行われた現金給付は当然のように物価高騰をもたらし、その上に脱炭素政策による原油・天然ガス不足が追い打ちをかけた。
現在、アメリカのインフレ率は7.5%で推移しているが、アメリカの政策金利がいまだにゼロに保たれているような現状では、インフレ率は更に上昇するだろう。
一方で紙幣印刷で無理矢理持ち上げられた実体経済は、物価高騰で紙幣印刷が出来なくなり、しかも逆に金融引き締めが必要となれば沈んでゆくしかないだろう。
2022年のテーマはこの2つの力である。1つはインフレであり、もう2つは金融引き締めによる景気後退である。これらを組み合わせたものをスタグフレーションと呼ぶ。
だがスタグフレーションの状況下での投資は簡単ではない。1970年代の物価高騰時には株価は暴落したが、ニクソンショックの例のように貨幣価値の暴落は株式の価値をいくらか底上げする。
そこで筆者が以下の記事で提案したのが以下のトレードである。
株式を空売りして、同額のコモディティを買うのである。そうすれば「名目からインフレを差し引いた、実質的な価格減少に賭けるポジション」が出来上がる。それこそがスタグフレーショントレードである。
詳細は記事の方を読んでもらいたいが、株式などを空売りする一方でコモディティを買うということである。
具体的な銘柄としては、空売り対象として以下のものを挙げた。
- 米国小型株指数
- 日本株やヨーロッパ株
- ジャンク債
- 中国関連コモディティ
そして買い対象としては以下のものを挙げた。
- ゴールド
- エネルギー資源や関連銘柄の安いもの
- とうもろこしや大豆、小麦など農作物
爆益を生みだしたスタグフレーショントレード
金融市場の状況をリアルタイムで追っている読者にはお分かりだと思うが、このトレードは現在爆発的な利益を生んでいる。空売りと買いの両面で儲かっているからである。
だが空売りの方の成功はウクライナ情勢の影響をほとんど受けていないと考えている。1月に予想した状況がそのままその通りに進んでいるため、このまま投資継続である。
一方でコモディティの買いはウクライナ情勢が短期的な上昇要因になっている。原油価格のチャートをまず掲載しよう。
これは明らかに産油国ロシアに対する経済制裁を織り込んでいる。
だがこの原油よりも凄まじい勢いで上がっているのが、筆者の保有する小麦である。小麦価格のチャートを掲載しよう。
1月時点では小麦はコモディティの中で割安だと思って保有していたのだが、2週間ほどで40%以上も暴騰してしまった。小麦はロシアが第1位の輸出国で、ウクライナも年にもよるが3位付近に付けているため、貿易への影響が懸念されているのである。
より長期のチャートで見ると次のようになる。
リーマンショック前のバブルである2008年の最高値に近い水準である。短期的には急騰だが、長期的にはウクライナがなくともここまでは来ただろう。
何故か。考えてもらいたいのだが、物価高騰で小麦などコモディティが上がるのは当然である。2008年のバブル崩壊前にも物価は上がっていた。だが当時のインフレ率の天井は5.5%、今のインフレ率は7.5%でまだ天井ではない。インフレ率のチャートは以下のようになっている。
だからむしろ長期的には小麦価格は2008年の天井を越えなければおかしい。一方で小麦を保有し続けるべきかどうかは、他に安いコモディティが残っているかどうかによる。
とうもろこしと大豆
他の銘柄はどうだろうか? 筆者が保有する他の農作物は、たとえばとうもろこしである。まずは最近のチャートを見よう。
上昇幅は20%程度だろうか。小麦の40%を見てしまった後では大したことのないように思える。贅沢な話である。
一方で長期的には以下のようになる。
長期的には小麦と同じくらい上がっていると言える。小麦が元々割安だったのである。
何故小麦がとうもろこしに比べて割安だったかと言えば、とうもろこしや大豆はバイオ燃料となるため、脱炭素の影響で元々上がっていた原油価格に連動していたのである。つまり、とうもろこしと大豆は脱炭素銘柄である。(原油も脱炭素銘柄というのが皮肉な話である。)
大豆も同じようになっているが、長期チャートだけ載せておこう。
割安なコモディティはあるか
ではより安いコモディティ銘柄はあるだろうか? 上に挙げた筆者の保有コモディティには他にゴールドがある。ゴールドも上がってはいるが、ウクライナの影響は限られる。
ゴールドは特に2022年の株価暴落後(つまり景気後退確定後)に本領発揮が予想できる銘柄である。
だからウクライナ問題で上がりすぎた銘柄を利益確定してその分ゴールドを増やす手もある。
しかしコモディティ市場にはまだ全然上がりきっていない銘柄が存在する。シルバーである。
何という出遅れだろう。しかもシルバーは銀食器などにも使われることから、ロシアのウクライナ侵攻で部分的に見られるような西側諸国における私的権利の制限が激化すれば人々が自分の家に隠すことのできる現物資産でもある。
結論
ということで、筆者は小麦、とうもろこし、大豆のポジションのうち、スタグフレーショントレード開始当初からの含み益の部分(例えば小麦は40%以上の上昇分)をすべて売却し、出来た余剰資金で銀を買った。
このやり方だと価格が急上昇しているポジションほど多く売ることになるので、割高なものほど売ることが出来る。
一方で空売りの部分は逆にポジションが多少縮んでいる(空売りは成功すると金額が下がるのでポジションが縮む)が、買いと売りの総額が合わなくなった部分は適宜売りを増やすことで対応している。
読者に知っておいてほしいのは、物価高騰でコモディティ価格高騰と一口に言っても状況によって先に上がる銘柄もあれば出遅れもあり、まだ上がっていない銘柄に乗り換えることで上げ相場を2回取ることも出来るということである。相場が100%上がったとしても、利益が最大100%に留まるとは限らない。