ロシアによるウクライナ侵攻で政治も金融市場も混乱している。だが前にも述べたように、この件を始めたのはアメリカとNATOであってロシアではない。
どうやらアメリカの議員の中でも「こちらが悪いのではないか」という声が出てき始めているようであり、ペンス元副大統領らが火消しに追われている。
NATOのせいではないか?
そうした声が出てきているのは共和党の議員からのようだ。前にも述べたように、そもそも2014年に当時のウクライナの親ロシア政権が暴力デモ勢力に追放されたのをアメリカは支援しており、更にはベルリンの壁崩壊後にロシアがドイツから手を引いたのは、NATOがそれ以上勢力を東に拡大しないことをアメリカが約束したからだが、これも破られている。
どれだけ大手メディアが一方的な報道をしようとも、冷静に考えればアメリカの主張はおかしいという声が共和党の議員から上がることは避けられないようである。アメリカ人からの評判は良くなかったにもかかわらず、選挙戦で「アメリカは他国の政権転覆をやめる」と宣言したトランプ元大統領の一番良い部分は共和党に受け継がれているらしい。
そうした状況を受けペンス氏は次のように反論した。
ロシアのウクライナ侵攻の責任の一端がNATOの拡大にあると主張する人々に聞きたい。ではもし東ヨーロッパの友人たちがNATOに加盟していなかったら、彼らは今どうなっているだろうか?
もしNATOが自由の国境を拡大していなければ、ロシアの戦車は今何処にいるだろうか?
それは、欧米がアジアに攻めてこなかったら日本人はどうしていたかという質問と同じである。だがアメリカ人がそれを理解することはない。
民間人への踏み絵
また、こうした欧米諸国内の同調圧力は民間人にも及んでいる。海外で大きくニュースになっているのは、ロシア人指揮者のヴァレリー・ゲルギエフ氏がミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団を含む複数の欧米のオーケストラや劇場から契約を打ち切られたことである。
だがゲルギエフ氏が何かウクライナ情勢に関して政治的な発言をしたわけではない。劇場や楽団側がロシア人であるゲルギエフ氏に公の場でロシアを非難するように要求したのである。
要するに踏み絵である。だがゲルギエフ氏は答えなかった。それで例えばミラノの劇場であるスカラ座は次のように述べていた。
われわれはまだ彼の答えを待っている。彼がわれわれの要望に答えない場合、他の指揮者を探さなければならないことになる。
だがゲルギエフ氏は政治的な意見を強要するという欧米側の要求に最後まで沈黙を貫いた。他にやりようがあるだろうか。
そしてゲルギエフ氏は免職された。ミュンヘン市のライター市長は次のように述べている。
ヴァレリー・ゲルギエフはわたしの要求にもかかわらず、ウクライナとわれわれの提携都市であるキエフに対しるプーチンの残酷な侵略戦争に対して明確かつ明瞭に距離を置く表明をしなかった。
だがそもそも何故ゲルギエフ氏は彼の要求に答えなければならないのだろう。西洋人は他人が自分の要求にしたがって考え方を表明することを当然だとでも思っているのだろうか。
また、音楽界にはゲルギエフ氏の他にも同じ状況に置かれた人がいる。ロシア人歌手のアンナ・ネトレプコ氏である。
彼女はウクライナ侵略に対する反対意見を表明したためにゲルギエフ氏ほど状況は酷くなかったが、特にゲルギエフ氏が責められているのを見てInstagramに次のように投稿した。
まず第一に、わたしは戦争に反対しています。わたしはロシア人で自分の国を愛していますが、ウクライナには多くの親族や友人がいて、苦しんでいます。わたしはこの戦争が終わり、人々が平和に暮らせることを願っています。
ただ、1つだけ付け加えたいと思います。芸術家や著名人に政治的立場を公表して自分の国を批判するように強制することは受け入れられません。
まともな意見ではないか。だが結局彼女もこうした意見表明があだとなってバイエルン国立歌劇場などから解雇されている。
ネトレプコ氏のInstagramは現在非公開アカウントとなっている。ゲルギエフ氏の対応とネトレプコ氏の対応は、どちらが正しかったのかは分からない。だが結局2人とも公の場から退き事態が落ち着くのを待つことを選んだ。馬鹿に対する正しい処方箋は距離を取ることである。
ロシアETF一時取引停止
こうした状況は金融市場にも及んでいる。3月4日にはアメリカに上場する複数のロシア関連ETFが一時取引停止となった。これには筆者が買っているロシアETFも含まれる。
残っているのはどうやらVanEck Vectors Russia ETF (NYSEARCA:RSX)だけのようである。
また、停止されたETFの中でDirexion Daily Russia Bull 2X Sharesについては3日に資産をすべて現金化したことが伝えられた。
保有している読者も居るかもしれないので説明しておくが、要するにそのETFは強制的に売却させられたものと考えて良い。つまりその持分はドルになったのであり、後日ドルで返却されるだろう。ロシア投資を継続する場合は、そのETFはそのまま放置してまだ取引されているものに乗り換える必要がある。
単に取引停止になったロシアETFについては、そのままロシア株を保有しているものと考えて良い。取引されようがされまいがETFは存在していて、そのETFはロシア株を保有している。だが現金化が伝えられた場合には乗り換える処置が必要となるので、自分の保有するETFのニュースは注視しておく必要がある。
筆者はまだドルコスト平均法による買いが終わっていないため、取引されているロシアETFで買いを継続する。ロシア株の水準については前回の記事で言及しているので参考にしてもらいたい。
結論
日本人は同調圧力とは日本の文化だと思い込んでいるが、前にも述べたように実際には欧米の同調圧力は日本の比ではない。少し前にレイ・ダリオ氏が中国に対して客観的な見方をしたというだけの理由で欧米社会から袋叩きに合っているが、今回の騒動も同じことである。
しかし金融市場や言論弾圧などが本当に戦時中のモードに入ってきた。ダリオ氏ならば、それは覇権国家の終わりに見られる典型的な状況であり、アメリカの覇権に陰りが見えてきたため、他の勢力がアメリカと争うことを躊躇わなくなっているのだと言うだろう。
イギリスの覇権の終わりに世界大戦があったことと同じである。ダリオ氏の予言がかなり的確に妥当しつつあることに筆者はかなり驚いているが、その場合、ETFの取引停止などで驚いてはいられない状況が、今後数年の内に実現するだろう。どの国の政府であれ、政府の管理下にある資産はすべて危険となる。
そういう相場になれば、暴騰するのは現物資産ということになる。ゴールドETFではなく、現物のゴールドである。だがそれまでに金相場も高騰するだろう。そしてその次にゴールドETFと現物の価格の乖離が見られるようになるだろう。
このシナリオについてはダリオ氏が既に以下の記事で説明している。今のコモディティ価格暴騰は、その序章のように見える。またそれについても記事を書きたい。