パウエル議長、ウクライナ危機でも3月の利上げ方針を改めて表明

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のパウエル議長は3月2日の議会証言で、ウクライナ情勢に懸念を示したものの、今月のFOMC会合における利上げ方針を改めて表明した。当たり前だが、ロシアのウクライナ侵攻でも利上げと量的引き締めはするということである。

ウクライナは株式市場に影響与えず

ウクライナ情勢を受け、アメリカや日本の株式市場は多少動揺している。米国株のチャートは次のように推移している。

だが最初に述べたように、ロシアのウクライナ侵攻が米国株に与える影響はほとんどなく、下げ幅も限定的となっている。

結局2022年の株式市場を決めるのはアメリカの物価高騰とそれに伴う中央銀行の金融引き締めだということである。

パウエル議長の議会証言

そうした最中、パウエル議長は議会証言を行なった。Fedのメンバーの何人かはウクライナ情勢の中で今後の利上げについて語っていたが、ロシアによる侵攻後にパウエル議長本人が公の場で話したのは初めてで、その内容が市場に注目されていた。

ウクライナ情勢で利上げの手が緩まるのではないかという意見が一部で言われていた。経済学者のラリー・サマーズ氏はウクライナ情勢による原油高に注目し、インフレはウクライナの一時的影響として中央銀行が利上げを控える可能性を指摘していた。

パウエル氏はどう発言しただろうか? 結果はと言えば、ウクライナ問題にかかわらず利上げ続行である。パウエル氏は次のように述べている。

インフレ率が2%を大きく上回り、労働市場が強い現状では、今月の会合で政策金利を上げることが適切であると考えている。

これだけを見ればサマーズ氏の懸念は杞憂だったように見える。だが金融市場ではここ数日で利上げ観測の減退が見られる。

そもそも金融市場では今月の会合で2回分(0.50%)の利上げが一気に行われる可能性をある程度織り込んでいたのだが、ウクライナ情勢を受けて現在は1回分(0.25%)の利上げの確率が99.3%という織り込みとなり、市場が利上げ予想を減退させたことが分かる。

また、今後2年の利上げ幅を織り込んで推移する2年物国債の金利はこれまで止まることのない上昇トレンドを描いていたが、ウクライナ情勢を受けて一時大きな後退をしている。

現状では元の高値に戻りつつあるが、2年物国債の金利がこれまで見られなかった動きを見せたのは注目に値する。

量的引き締めも実行

また、Fedは量的緩和で拡大したバランスシートを逆に縮小する量的引き締めを開始するプランを1月に発表していた。この量的引き締めは2018年に株式市場を暴落させ、パウエル議長は当時撤回を余儀なくされている。しかし今回は物価高騰が差し迫っているため撤回出来ない。

ウクライナ情勢を受けて量的引き締めにも影響があるかどうかが注目されていたが、パウエル氏は今回の議会証言で次のように再確認している。

緩和政策を取り除くプロセスでは、政策金利の上昇とバランスシートの縮小の両方が行われる。

量的引き締め開始の時期については「利上げプロセスが開始された後」という従来の発表を踏襲しており、いつなのかが不明確である。ただ、サンフランシスコ連銀総裁のデイリー氏がバランスシート縮小は段階的で予測可能なやり方で行われるとしているので、開始前にはもう1段アナウンスがあるのだろう。

結論

やはりウクライナ情勢は株式市場には影響はないし、金融政策に影響を与えることはない。ただ、今月の利上げは0.25%になりそうである。

しかしそれも結局、株式市場が下がったからであり、ある程度持ち直した今は2年物の金利も持ち直している。利上げのペースについては戦争ではなく株式市場がそれに耐えられるかどうかによる。

以下の記事で見たように、戦争に対する株式市場の反応は、その時の市場がもともと上げ相場だったか下げ相場だったかに大きく左右され、反応する時もあればしない時もある。つまり、短期的な値動きを見れば一見戦争に反応したように見えても、戦争を口実に元々のトレンドが顕在化しているだけなのである。

こうして結局、2022年の相場は「株価はこれからの強烈な金融引き締めに耐えられるのか」という元々のテーマに戻ってくることになる。

そして繰り返しになるが、結論は次のようになる。今の7.5%のインフレを抑えるのに十分な引き締めの量は、2018年に市場を暴落させた引き締めの規模を軽く上回ってしまう。

一方で十分な引き締めを行わず、インフレ率が7.5%である状況で金利を1%だか2%だかに保ち続ければ、アメリカのインフレ率は今年中に2桁になってゆくだろう。その場合ドル暴落は避けられない。

だから米国株は(特にドルの値下げを考慮しなければならない日本の投資家にとっては)既に詰んでいるのである。

これは年始の株価下落前から言い続けていることで、この意見を変える理由は何も存在していないし、今後現れることもないだろう。この状況で利益を出すトレードについては以下の2つの記事で説明しているので、そちらを参考にしてもらいたい。