世界同時株安の原因はロシアとウクライナではない

2022年に入って株式市場が下落している。大手メディアは経済状況について、「ウクライナ危機で米国株下落」だの「サプライチェーン混乱でインフレ」だの言っているが、マスコミが経済や金融市場について説明していることはいつも通り100%間違っている。

世界的な株価急落

まずは現状を確認してゆこう。日本株や米国小型株が先に下落相場に入っても一定期間耐えていた米国の主要株価指数S&P 500だが、今や下落相場に入ったと言っても良い値動きとなっている。本丸が陥落しかかっているということだろう。

一方で特徴的なのは原油とゴールドが上昇していることである。原油価格のチャートは以下の通りである。

金相場は次のように動いている。

一方でリスクオフならば株価と一緒に下がるはずの長期金利は高止まりしたままである。

この動きをどう考えるかである。

2014年クリミア併合における金融市場の動き

だがその前に考えたいことがある。ウクライナ問題で株価が下がっているという主張にそもそもどういう根拠があるのかということである。

はっきり言えば、地政学リスクに対して過去に相場がどう動いたかということを知っている人間はメディアが言うような誤謬に耳を傾けることはない。例えば2014年3月18日に行われたロシアによるクリミア併合時の株価の動きは次のようになっている。

3月18日前後において無風である。

同じ時期の長期金利のチャートを見てみよう。

同じく無風である。

株価下落の原因

そもそも世界経済には無数の要因があり、その中で何が本当の原因かを特定するのは容易ではない。それも分からずに適当に原因を決めて報じている大手メディアは、自分のやっていることの何が難しいのかさえ分かっていない完全な素人だということだ。

ではどうすれば良いか。論理的に原因を特定するための1つの方法は、同じことが起こった時にその銘柄がどう値動きしたかを過去に遡って調べることだ。レイ・ダリオ氏が歴史に拘る理由、あるいはジム・ロジャーズ氏が次のように述べた理由がそれである。

歴史を学べば大部分の人々の先を行ける。

だが誰も歴史から学ばない。ウクライナがどうとか言っている人々の中でクリミア併合時の市場の値動きを調べた人が1人でも居るだろうか? 何故人は学ばないのだろうか?

上で述べたようにクリミア併合時、株価や金利に影響を与えることは無かった。こうした地政学的状況が本当に株安の「原因」となるのならば、2014年の値動きは完全におかしいだろう。だからおかしいのは理屈の方である。

一方、現在の株安と背景となる要因が同じ時期とはいつだろうか? アメリカの金融引き締めによって株価が暴落した2018年の世界同時株安である。

しかし単なる株安なら長期金利は下がるだろう。また、原油やゴールド、あるいは農作物などのコモディティは軒並み上がっている。株安にもかかわらず長期金利が抵抗を示し、かつコモディティ価格が高騰した時期はいつか? アメリカにおける1970年代の物価高騰である。

つまり、現在株価が下落し、長期金利が高止まりし、コモディティ価格が上がっている原因はインフレと金融引き締めであり、ウクライナではない。

結論

逐一間違った憶測を報じる大手メディアと、何の根拠もないのにそれを信じる人々に一々応対するのも面倒なのだが、金融業をしていれば顧客にそれを聞かれ続けるのが日常である。

以前も言ったように、下げ相場とは一気に来るものではなく、リーマンショックにおいても天井から大底まで1年半かかった比較的長期の相場なのである。

しかし下落の最中に本当の原因を認識している人間はほとんどいない。だから市場は短期的には他の無関係の要因に反応しているように見える。事実、短期的にはそれらのニュースに反応して動く。しかしその短期要因が消え去っても相場は戻るべき場所には戻らず、中長期的には相場は本当の長期的トレンドにのみ収斂してゆく。大半の人は下落相場が終わるまでそれに気付かない。

リーマンショックの時も「不動産市場の混乱が経済全体に広がることはない」と言われ、株安の原因がまことしやかに色々推測された。当時も人々はメディアが報じた理由が株安の原因だと思っていた。しかし今では誰もそれを覚えていない。リーマンショックの原因は不動産価格の暴落とそれに関連した金融商品である。

だが当時、人々は他の理由を色々と探していた。下げ相場とはそういうものなのである。