BloombergによるIcahn Enterprisesのカール・アイカーン氏のインタビューの続きである。前回はインフレと株式相場についての部分を紹介した。
今回は「もの言う投資家」アイカーン氏の本業であるアクティビズムについて説明した箇所である。
アクティビストの仕事
アクティビズムとは会社の株式を大量に買い、大株主になってその会社の経営を直接変えることで株価を上げる投資法である。
多くの個人投資家にとっては可能な投資ではないのでアクティビズムについて詳しく知っている読者は少ないだろう。アイカーン氏は次のように始めている。
何年もの間、わたしがベストだと考えてきた投資法で、しかし多くの人には出来ない投資法はアクティビズムだ。つまり、いくらかの理由で株式が安く売られている会社の内部に入り、その会社を助ける。
つまり、筆者のような経済全体を分析するマクロ投資とは対照的な、いわばミクロ投資と言うべきものである。
例えばFed(連邦準備制度)のパウエル議長が出身のプライベート・エクイティ・ファンドもこのようなミクロ投資の範疇に入る投資法であり、パウエル氏がマクロ経済について何も知らないのはマクロを扱った経験が一切ないにもかかわらず、共和党員だというだけの理由でトランプ大統領に議長にされてしまったからである。(しかしアイカーン氏ならパウエル氏よりも上手くやっただろう。)
もの言う投資家
会社に投資し、会社の内部に入ってその会社を助ける。しかし日本の読者が想像する「もの言う投資家」は、むしろその企業の従来の経営陣と敵対している姿ではないか。
アイカーン氏は次のように続ける。
望まれざる客として入ることもある。だがアメリカでは多くの会社で酷い経営が行われている。酷いとしか言い様がない。
それはまさに今日のアメリカが抱える問題の理由だと思っている。CEOが1,000万ドルや1,500万ドルを稼ぎ、しかもこういう連中の多くはその会社を経営する能力がない。
アイカーン氏はCEOが高給取りであること自体に文句を言っているわけではない。彼はこう付け足している。
例外も多い。例外も多いと言っておきたい。その肩書きに値する優れたCEOも多く居る。そして報酬が支払われる。
経営が上手く行っているなら、その人が大金を儲けることに異論はない。彼は確かに生産しているからだ。だが酷いCEOが多過ぎる。酷い取締役会が多過ぎることも問題だ。取締役会が報酬を得てやっている唯一の仕事は、CEOを監査することだからだ。
だが多くの会社では経営陣が自分の高給を維持することに全力を出し、会社を良い方向へ進めようとはしないのだろう。
人に権力を与えて監視をしなければ人はその権力を乱用し始める。政治も経営も同じなのだろう。
その意味では創業者など株主と経営者を兼任しているケースはまともである。まともに経営しなければ株主である自分が損をする。
だが株主と経営者が別になっている大企業のケースでは、まともな経営者というのは少ないのだろう。社内政治で生き残ること以外に特に取り柄のないサラリーマン社長と言えば日本企業を思い浮かべるが、程度の違いはあれ事情はアメリカでも同じである。
アイカーン氏は次のように続ける。
そうした会社に問題が発生し株価が下落した時、わたしたちはそこに入る。それがわれわれの投資法であり、われわれは掃除をする。いくつかの小さなことを変更する。あるいはそれ以上のことをするかもしれない。
アイカーン氏のパフォーマンス
ところでIcahn Enterprises (NASDAQ:IEP)が上場していることを知っている読者はどれくらい居るだろうか。普通に米国株として買うことが出来るのである。
それは同時にアイカーン氏のパフォーマンスを株価チャートで見ることが出来るということでもある。アイカーン氏は自社のパフォーマンスについて次のように述べている。
われわれのパフォーマンスは上下動が激しい。数年の間負け続けることもある。
では最近10年ほどのIcahn Enterprisesの値動きはどうなっているかと言えば、次のようになっている。
株価は10年間横ばいである。しかし投資家が利益を得なかったわけではない。Icahn Enterprisesの現在の予想配当は8ドル(利回りは14%)であり、これまでも年間6ドル以上の高配当を出してきたことを考えると、むしろ安定した超高配当銘柄なのである。
アイカーン氏はアクティビズムが高いリターンをもたらした理由をこう説明する。
われわれがこれまで成功してきたのは、アメリカ経済に非常に根強い問題があるからだ。まともに監査が行われていない。
つまり、大した仕事もしていないのに高い給料を貰っている経営陣が多過ぎるということなのだろう。
また、株式市場全体の動きに出来るだけ左右されないようにしてきたとアイカーン氏は言う。
ある株式が安いと思うのはその会社に隠された価値がある時だ。株式市場全体が安いとか、市場が上げ相場だとかそういう理由で買うのではない。
そしてIcahn Enterprisesはヘッジをしているらしい。
われわれはリスクをヘッジしている。上昇相場でもずっとヘッジをしている。つまり、S&P 500や他の株式を空売りしている。その上で自分たちが良いと思う会社を買う。
市場全体が下がったために保有株が下がった場合、その損失分を空売りの利益が埋めてくれるのである。
結論
今回の記事では個人投資家があまり目にすることのないアクティビストの仕事の一端を紹介した。
個々の企業に投資をするミクロの仕事であるため、経済や金融市場全体を予想するマクロ投資には距離を置いてきたと彼は言う。
市場全体の上げ下げには出来る限り関わらないようにしている。過去の手痛い経験からそれを学んだ。市場の短期的な上下動に関わってはならない。
しかし前回の記事によれば、アイカーン氏は現在のインフレ相場を非常に良く分析している。ある分野で成功した人間は別の分野でも成功できるということなのかもしれない。