アイカーン氏: 永遠に紙幣を印刷し続けることは出来ない、パーティは終わり

Icahn Enterprisesのカール・アイカーン氏がBloombergのインタビューで、1970年代の物価高騰と当時の株価暴落がこれから再現すると述べている。

もの言う投資家とインフレ相場

アイカーン氏はいわゆる「もの言う投資家」であり、アクティビストの中では恐らく一番有名だろう。

そのアイカーン氏が現在のアメリカの物価高騰とインフレ相場における資産価格について語っている。個別の企業に働きかけることを得意としているいわばミクロの投資家であるため、マクロ戦略は専門ではないので予言するわけではないと何度も断りながらも、アイカーン氏ははっきりと次のように言った。

このような状況は遅かれ早かれ比較的酷い形で終わる。

永遠に紙幣を印刷し続けることは出来ない。

その理由は明快である。アイカーン氏は次のように続ける。

政府はインフレを制御することは出来ない。あるいはもし制御出来るとすれば、(訳注:1970年代の)ボルカー財務長官がやらなければならなかったことによってだけだ。当時金利は18%あたりまで上げられた。

丁度この日が誕生日だというアイカーン氏は86歳であり、インフレが始まった1970年代には40歳前後である。物価高騰期のアメリカを現役の投資家として過ごしているアイカーン氏は当時のことを振り返って言う。

あの日々のことは覚えている。信じられないくらい酷かった。同じことが起きると思うが、その議論をするためにここにいるわけではない。わたしはマクロ経済学の専門家ではない。ただ単純な事実を見ているだけだ。単純な事実とは、物価高騰と紙幣印刷の共存は不可能だということだ。

状況を正しく認識しながら「自分はマクロ経済学の専門家ではない」と言うアイカーン氏と、専門家のふりをしながら「インフレは一時的」と言い続けたパウエル議長、自分が紙幣印刷でインフレを引き起こしたにもかかわらず他人を責めるリベラル派の政治家たちを比べると、何も知らないが肩書きだけある人間ほど恐ろしいものはないと思う。人は安易にそれを信じてしまう。

また、アイカーン氏は現在の株安がそのまま続くかどうかには確信がないようだ。彼は次のように続けている。

下落相場がすぐに起きることを予想しているわけではない。来週、来月、もしかしたら来年や再来年に何が起こるかを厳密に予測できる人はいない。政局や大統領選など変数が多過ぎる。

だが大局的に見ると物事は単純だ。これは高校でも教えられる経済学の初歩だ。現金を流し込み続けることは出来ない。紙幣をばら撒き続けることは出来ない。何故ならば、そうすると紙幣は間違いなく価値を失うからだ。

高校生でも理解できると主張するアイカーン氏は、ジェフリー・ガンドラック氏よりもリフレ派に優しいかもしれない。ガンドラック氏は12歳でも理解できると主張しているからである。

しかし何故政治家はこんな簡単なことも分からなかったのだろう? そして何故人々は政治家の言うことを信じたのだろう。筆者にはそれが一番の謎である。

パーティは終わりだ

アイカーン氏は多少の緩和であれば必要な時もあると言う。政策金利を恣意的に決める中央銀行を廃止して短期金利を自由に変動させろと主張するガンドラック氏とはそこが違う点である。しかしアイカーン氏ももはや紙幣印刷は続けられないと言う。

少しの間なら良かったかもしれない。それは少なくとも人々を幸せにする。緩和が必要な時もあるだろう。しかし今はもう駄目だ。パーティは終わらなければならない。これから起こることは、あるいはもう起こっていることかもしれないが、物価高騰が広がる。

まだそこ(訳注:1970年代の状態)までは行っていない。だがインフレは制御する必要がある。これからどうなるか待ちながら状況を見ることは出来ない。その姿勢は過去に見た。もう少し様子見をして、そして様子見をし過ぎることになるのだ。

しかしもう十分に様子見をして十分に手遅れになっているだろう。

筆者の見解では問題は、官僚組織の本質を考えれば手遅れになることが不可避の結果だったということである。2018年に自分の金融引き締めで株価を暴落させたパウエル議長はインフレを「様子見」することを選んだ。インフレが広がらないうちに利上げをして株価を暴落させると自分の責任になるからである。

だからインフレが広がってアメリカ国民が懸念し始め、バイデン大統領に「インフレを退治しなさい」とのお墨付きを貰えて始めて金融引き締めに取り掛かった。つまり、パウエル議長はいわば物価高騰が十分酷くなるまで待っていたのである。

株価の短期的見通し

1970年代のことをしきりに語るアイカーン氏が思い出しているのは、株価が60%暴落した当時のインフレ相場のことである。

アイカーン氏は長期的に起こることは明らかだと言う。しかし短期的に市場がどうなるかについてはあまり語らず、より長いスパンで状況を見ているようだ。彼はこう述べている。

3、4年かそれよりもかなり早い段階でこの状況は壁にぶつかるだろう。

株価暴落とは感覚的には1ヶ月程度の間で一気に起きるかのように思うものだが、リーマン・ショック時にバブルの頂点から大底まで1年半かかったように、下落相場は実際にはもっと長く続く。2018年にそうだったように、天井を的確に当てることも簡単ではない。

だからアイカーン氏のように長期的な視点を持つことは短期的な値動きに惑わされないために重要である。

しかし現在7.5%のインフレを抑えるためにどれだけの利上げが必要かということを考えると、株式市場はもって半年ほどではないかと筆者は考えている。

筆者も短期的な値動きを予測することはしないが、マクロ投資家としてはタイムフレームに関してミクロ専門のアイカーン氏より詳しく当てる責任があるだろう。株価下落の詳しいタイムフレームについては以下の記事で出来る限り論じてあるので参考にしてもらいたい。