思い切ったタイトルを付けてみたが、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで言っていることを要約すると確かにこうなる。
アメリカの物価高騰
ダリオ氏は現金給付が原因で今アメリカで起こっている物価高騰を嘆いている。
ダリオ氏を含む著名投資家はこぞってこうした財政支出に反対していたから当たり前だろう。彼はこう書いている。
コロナ禍で多くの現金と信用を受け取ってリッチになったと感じた人々や、大量の紙幣と信用を創造してそれでも大したインフレは起こらないと主張した中央銀行や政治家、そしてその主張を信じた人々は歴史から学ぶべきだ。
いまやほとんどの人が物価が高騰して驚いている。こうした人々の頭はどうなっているのだろう? 歴史の理解と、貨幣と信用の量とインフレに関しての常識は何処に行ってしまったのだろうか?
普段冷静な言葉で語ることの多いダリオ氏の言葉にだんだん遠慮がなくなってきている。インフレは人災であり、最初から避けられたはずの大惨事であるだけにダリオ氏も歯がゆいのだろう。
だが1つダリオ氏に反論させてもらうと、政治家の頭は正常である。彼らの目的は政府予算を借金で膨張させてその資金で票田に金をばら撒くことだから、インフレになると予期していたかどうかは一切関係なく同じことをやるだろう。彼らは自分のためにちゃんと仕事をしている。
一方でそうした政治家の行動が自分のためになると信じた有権者の頭は、どうなっているのだろう。それは筆者にも分からない。
インフレによるマインドの変化
だがいずれにせよインフレは容赦なくやって来ており、ヨーロッパでは電気代が倍増し、アメリカではものが買えなくなっている。
そしてダリオ氏によれば、人々はついにデフレマインドから脱却しつつあるという。彼は次のように述べている。
人々は徐々に豊かさの尺度を現金や資産の名目値(インフレ調整前の数字)から実質値(インフレを差し引きした数字)で計るべきだという転換を経験しつつある。
アメリカでは既に7.5%のインフレとなっていることもあり、このまま現金を持っていればお金がなくなってしまうということが投資家ではなく消費者や事業者のレベルで実感されているのである。
そうすれば人々は対策を練り始める。その結果はどうなるか? ダリオ氏はこう続ける。
人々は現金が安全資産というよりはゴミのような投資であり、実質的にすべての債権(債券など)は悪く、インフレを守るためには在庫を積み上げ先物で先買いするべきで、増加した生活費を考慮してインフレ対策をしなければならないということに気付き始めている。
人々の認識がこのようにシフトすれば、人々の投資とそれ以外の経済活動がますますインフレ的な方に傾き、中央銀行が物価安定と経済成長を両立することがより難しくなるということは、歴史を勉強しわずかでも常識があれば分かるだろう。
値段が上がる前にものを買おうとし、それが当然ながら更なるインフレ圧力を生むのである。そして恐らくインフレ率は10%を越えて上昇してゆく。これが念願の「デフレマインド脱却」である。
ちなみにこうした馬鹿げた考えからいち早く抜け出そうとしているのがイギリス人である。
一方で日銀はいまだに「デフレ脱却」を目指している。彼らは何年前の世界に生きているのだろう? 国際的な舞台でババを引くことにかけて日本人は天才的である。
結論
現金給付はもう終わったのにインフレは何故続くのかと思った読者が居たならば、このダリオ氏の考察が役に立ったのではないか。
コロナ初期にマスクやトイレットペーパーが店頭から消えた現象がすべての商品で起きようとしているのである。インフレが起こると、人々はものを更に買おうとする。この経済危機を避ける方法については以下の記事などに既に書いている。
しかし面白いのはダリオ氏の言葉に最近遠慮がなくなってきているということである。アメリカ民主党のエリザベス・ウォーレン氏らが自分で向こう見ずな現金給付を行なって物価高騰を引き起こしておきながら、政府の借金が増えたから富裕層から取り上げると主張したあたりからダリオ氏の堪忍袋の緒が切れたらしい。
また、ダリオ氏の現在の投資状況については前回の記事で報じているのでそちらを参考にしてほしい。