さて、引き続き機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fである。今回はレイ・ダリオ氏が運用する世界最大のヘッジファンドBridgewaterのポートフォリオを紹介する。
Bridgewaterの中国推し
金融緩和と財政緩和がついに物価高騰を引き起こしてしまった世界において、創業者のダリオ氏は現在のアメリカは没落前の大英帝国やオランダ海洋帝国と同じ状況であるとするなど、投資家に多くの有益な知見をもたらしてくれている。
筆者はダリオ氏の知識と分析を大いに尊敬している一方で、実は彼の投資手腕自体をそれほど買っているわけではない。例えば世界同時株安の起こった2018年には、ダリオ氏が株式に強気な発言をした次の瞬間に株式市場は急落を開始した。
彼は経済的分析については世界でも他の追随を許さないが、具体的なトレーディングについてはあまり上手くないのではないか。
つまり筆者はダリオ氏を優れたアナリストだが優れたトレーダーではないとみなしているのである。アナリストとトレーダーの違いは以下の記事が参考になるだろう。
そんなダリオ氏だが、最近の彼のトレンドは中国推しである。彼は最近デフォルトした中国の不動産ディベロッパー恒大集団の問題が明るみに出た後も中国への投資を擁護し、筆者を含む何人かの人間を驚かせた。
そして前回のForm 13F(昨年9月末のポジション)では実際に中国株を買い増してその本気度を証明した。
今回はどうなっているか?
さて、では今回のForm 13F(昨年末時点のポジション)である。前回の開示で大幅増額となっていた(中国含む)新興国株ETFのポジション保有額は次のようになっている。
- Vanguard Emerging Markets Stock Index Fund: 11.7億ドル -> 8.3億ドル
- iShares MSCI Emerging Markets ETF: 10.1億ドル -> 4.4億ドル
- iShares Core MSCI Emerging Markets ETF: 8.5億ドル -> 5.0億ドル
大幅減額である。
恒大集団の問題は対処可能ではなかったのか? アメリカのインフレを気にして減額したのだろうか? しかしダリオ氏はアメリカのインフレについても、インフレ局面でも株式は魅力的だと語っていた。
ダリオ氏は何故中国に弱気になってしまったのだろうか。一方でその代わりに以下のような米国配当株を買い増している。
- Johnson & Johnson: 4.4億ドル -> 5.3億ドル
- PepsiCo: 4.0億ドル -> 5.3億ドル
- Costco: 3.8億ドル -> 5.2億ドル
- McDonald’s: 3.5億ドル -> 4.5億ドル
しかし、米国大型株は米国小型株や日本株などよりも下落幅が小さかったとはいえ、買い増した米国株は年明けから下落相場に入っている。
一方でダリオ氏が見捨てた新興国株ETFは、米国株などより先に去年から下落相場に入っていたので、以下のように年始からはそれほど下落していないのである。
結論
どうにも歯切れの悪いトレードではないか。徐々にハイテク株を減額し、年末時点で空売りに転じたジョージ・ソロス氏のトレードとは正反対である。
ダリオ氏が今後インタビューなどで新興国株について何を言うかに注目したい。
また、上で言及したソロス氏のトレーディングの記事は、トレーダーには大変面白い内容なので未読の読者にはおすすめである。