2月10日に1月のアメリカCPI(消費者物価指数)統計が発表され、アメリカのインフレ率は7.5%(前年同月比)で前月の7.1%を上回る物価上昇となった。
1年間で貯蓄の実質的価値がそれだけ減ったという意味では数字自体も相当だが、内容を見るとコロナがまったくデフレ的ではないという事実が浮かび上がる。
コロナでも加速するインフレ
まずはインフレ率のチャートを掲載しよう。
見ての通り1月は更なる加速となった。
筆者はこの結果に少々驚いた。何故ならば、1月はアメリカでコロナの1日の新規感染者数が100万人を越えたオミクロン株のピークである。だから長期的なインフレ動向が変わらないとはいえ、1月はある程度減速しても仕方がないと考えていた。
コロナによる供給減は続く
だがCPIの内容を見れば、その理由の半分は納得が出来る。これまで東南アジアなどの工場がコロナで停止していた影響で半導体不足となっており、中古車などの価格が高騰していた。
この要因はコロナによる一時的なものだと考えられていたが、問題はコロナが今のところ一時的ではないということである。それで中古車価格の上昇問題が再燃している。
散々一時的と言われていた中古車の問題はまだ加速し続けているのである。コロナがインフレ的かデフレ的かという問題があるが、少なくとも半導体についてはインフレ的で、しかもその影響はコロナが続く限り続きそうである。
アメリカ人の外出止まらず
ではアメリカの人々は外出できなくなって外での消費は減っているのだろうか? 映画館、劇場、コンサートの入場料の項目を見てみると驚くべきことが発覚する。
オミクロン株で1日100万人の感染者が出ているなかで映画館などの入場料のインフレが加速している。もはやコロナのデフレ要因は消え去ったが、工場停止などのインフレ要因だけが残っているのである。
この結果は考えてみれば当然である。コロナが長引くにつれ、消費者は徐々に自由になってゆく。いつまでもロックダウン的な生活をしてはいられないからである。一方で政府や企業は世間体からコロナによる制限を考え続けなければならないだろう。
よって生産は自由にならず、消費は自由になる。その結果は言うまでもなくインフレである。コロナの結果が最悪の形で物価高騰に貢献していると言って良い。これは筆者も予想していなかった動きである。
垂直上昇する住宅価格
そして住宅市場はどうなっているだろうか? CPIの中で住宅価格の上昇を反映する家主の見なし賃料(家主が家賃を払っているものと仮定して算出する項目)は次のようになっている。
ほぼ垂直上昇である。
結論
今回のCPI統計は7.5%という全体の数字よりも、内容においてデフレ的要素の見当たらないデータとなった。
驚異的なのはコロナがどうやら全面的にインフレ要因だということである。半導体は不足する一方で、映画館の入場料は上がり始めている。
これは中央銀行には厳しい状況である。インフレ対策で利上げを加速せざるを得ない。金利先物市場ではこの結果を受けて今年の利上げ回数の予想は一番可能性が高いのが6回となり、次点で7回という織り込みになった。
市場の利上げ回数の織り込みはどんどん増えている。今年のFOMC会合の残り回数は7回なので、7回の利上げというと、経済学者ラリー・サマーズ氏が予想した「全会合での利上げ」ということになる。
株式投資家にとって不吉なことに、サマーズ氏はこの記事で更に、全会合で利上げした上に1回の会合で2回分の利上げを行う必要性さえ予想している。
2018年の世界同時株安では株式市場は9回の利上げに耐えたが、筆者を含む多くの投資家はコロナで疲弊した今の経済ではもって4回前後だろうと踏んでいる。
つまり利上げ7回は完全に詰んでいるのだが、それでは済まない可能性が濃厚となってきた。株式市場はどうなってしまうだろうか。
筆者としては、年始の予想を維持するのみである。