世界同時株安でもコモディティが下落していない理由

2022年初めからの株価の下落は読者もよく知っているだろう。しかし同時に金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティはどう推移しているだろうか?

株価下落の現状

思い出してもらいたいのは今年の投資戦略を書いた以下の記事である。

この記事では、まず株式などリスク資産の空売りを奨めた。アメリカがインフレ打倒に本腰を入れるならば、7%ものインフレ抑制に必要な規模の金融引き締めに株式市場は間違いなく耐えられないからである。

しかしS&P 500などに含まれる米国主要株はバブルの最後の最後まで下落しないとして、それよりも先に下落する周辺の資産クラスを空売り推奨した。具体的には次のものである。

  • 米国小型株指数
  • 日本株やヨーロッパ株
  • ジャンク債

これらのチャートを見てゆくが、まずは基準となるS&P 500からである。

急落はしているが、辛うじて上昇トレンドから外れているとは言い難い。

さて、ここからは空売り対象の現状確認である。2018年にもS&P 500より先に下落して株安の先行指標となった米国小型株指数Russell 2000はどうだろうか?

S&P 500より先に下落トレンド入りしており、底値からの反発も弱々しい。予想通りである。

次々にチャートを紹介してゆこう。日経平均はどうだろうか?

米国小型株と同じような値動きとなっている。上記の記事でS&P 500をランク1とした時に日経平均を米国小型株とともにランク2に分類し、ランク1よりも先に落ちるとしたことは正しかったようである。

次は同じランク2に分類したドイツの株価指数DAXである。

ドイツ株はユーロ圏が物価高騰でもマダム・インフレーション(ECBのラガルド総裁のこと)が緩和継続を宣言していたので強かったが、最近その態度が軟化してきたので値動きが怪しくなりつつある。結局どの国もインフレ対策で金融引き締めをやらなければならないのである。

次は債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏が株安の先行指標と呼び、上記の記事で筆者も空売り対象に加えたジャンク債ETFである。

ジャンク債はもう死んでいる。そしてこれは、ガンドラック氏の言葉を借りれば、炭鉱のカナリアがもう死んでいることを意味する。

下落する株価と下落しないコモディティ

これらのチャートは何を意味しているだろうか? 言うまでもなく、アメリカやヨーロッパにおける物価高騰によって大規模な金融引き締めが必要となり、金融引き締めが経済を後退させてしまうということを織り込んでいる。

一方で株安にもかかわらずそれほど下落していない資産クラスがある。コモディティである。

コモディティについては上記の記事で以下のものを買い推奨した上で、中国不動産バブル崩壊懸念から中国関連のコモディティは避けるよう書いておいた。

  • ゴールド
  • エネルギー資源や関連銘柄の安いもの
  • とうもろこしや大豆、小麦など農作物

まずゴールドから見てゆこう。

リーマンショックにおいて株価とともに下落した金価格だが、最近の株安にもかかわらず耐えている。インフレ懸念が底上げをしているのだろう。

また、エネルギー資源の代表格である原油は耐えるどころか好調である。

これはウクライナなどの地政学的要因もあるためその分は差し引かなければならないが、原油高の根底にあるのは悪名高い脱炭素政策である。

そしてバイオエタノールの原料となるためエネルギー価格とある程度連動するとうもろこし(買い推奨した)も好調である。

同じく買い推奨した大豆も同様である。

この辺りはほとんど株安を気にしていない。

また、エネルギー関連にばかり重心を置くのは危険であるため、小麦も混ぜておきたいが、こちらも株安に耐えており、ゴールドと似た動きになっている。

スタグフレーションの足音が聞こえる

景気後退を示唆する株安にもかかわらず、コモディティ価格が下がっていないか、むしろ高騰している。

これが何を意味するのか、もう読者には言わずとも分かるだろう。景気後退と物価高騰の組み合わせ、つまりスタグフレーションである。

景気後退懸念は株価にマイナスの影響を与え、インフレ懸念はコモディティ価格にプラスの影響を与える。だから以下の記事ではこのように推奨しておいた。

株式を空売りして、同額のコモディティを買うのである。そうすれば「名目からインフレを差し引いた、実質的な価格減少に賭けるポジション」が出来上がる。それこそがスタグフレーショントレードである。

詳しくは記事内容を参考にしてもらいたい。しかし株安にもかかわらず横ばいか高騰するコモディティ価格のお陰で、今のところ筆者はポジションの両側で儲かっている。以下の記事で説明したように債券市場でも大いに儲けているので、今年はかなりの当たり年である。

とはいえ、株安が本格化すれば流石にコモディティも下方圧力を免れないだろう。これはあくまで「景気が後退するほどには物価は下落しない」ことに賭けるクロスポジションなので、ポジションの両側で儲ける目的で設計されていない。しかし今のところは両側で儲かっている。

何度も言うが、投資家はどのような相場でも儲けられるので、政治家が無茶苦茶をやろうが別に構わない。しかしこのインフレは現金給付と脱炭素政策による明らかな人災である。他の国民は本当にそれで良いのだろうか?