サマーズ氏: インフレで政策金利は2%以上まで利上げされる可能性

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでアメリカの物価高騰とFed(連邦準備制度)の利上げについて語っている。

上昇する賃金

サマーズ氏はまず数日前に発表されたアメリカの雇用統計についてコメントしている。

1月分の雇用統計の中で一番重要なのは、月に0.7%、年率に直すとほとんど9%も上昇した賃金だろう。

この数字の本当の意味を言うのは難しいが、間違いなく言えるのはアメリカで非常に速い速度の賃金インフレが起きているようだということだ。

経済学の世界では、賃金のインフレは根強く、一度上昇トレンドに入ると打ち消すのが難しいことが知られている。企業の立場に立ってみれば、昇給は簡単でも減給が難しいことから、当たり前の話だろう。

そうなれば給料は上がる(がインフレで打ち消される)一方で貯蓄が紙切れになる。賃金が上がってもやはりインフレは社会問題なのである。

サマーズ氏はこの賃金インフレが容易に商品やサービスの物価に反映されると言う。

賃金は企業のコストの75%を占めているので、中古車や住宅などの特殊事情を除いても、残念ながらこれは2%のインフレ目標を大きく超えた根強いインフレに突入していることを意味する。

現在、アメリカのインフレ率は7.1%だが、まだまだ上昇してゆくということだろう。

インフレと利上げ

中央銀行はどうするだろうか? Fed(連邦準備制度)のパウエル議長は元々インフレは一時的だと言い張っていたが、再任にあたってバイデン大統領からインフレを退治するようにと釘を刺されてから金融引き締めに勤しんでいる。

金融市場は元々パウエル氏の言うことを信じていなかった。パウエル氏が利上げを否定していた間にも、債券市場では今後の利上げ予想を反映する2年物国債の金利が上がり続けていた。

そしてパウエル氏が市場の利上げ予想に遅れを取っていると批判していたのが他でもないサマーズ氏である。

そして今、ようやく金融引き締めに向かい始めた中央銀行に対してサマーズ氏はこう述べる。

Fedは市場に追いつかなければならない。しかも、今織り込まれているように実質金利を-2%まで上げたとしても、今年のインフレ率やインフレ心理に大きな影響を与えるのに十分かどうかは怪しいと思う。

ちなみに現在のインフレ率は7%、政策金利は0%なので、実質金利は差し引き-7%であり、これは通貨が暴落しているトルコ以上の超緩和状態である。

このままではインフレは止まらないどころか更に高騰してゆくだろう。

今年の利上げ回数

これまで低金利に依存して上がってきた株式市場にとって利上げは大問題なので、投資家は今後の利上げがどうなるかということを気にしている。

結局どれくらいの利上げが今年必要になるだろうか? サマーズ氏は今後のデータ次第だとして具体的な数字に言及するのを避けた。

今年必要な利上げ回数が5回なのか7回なのかを今判断する必要はないと思う。

だがその後で、株式市場にとってはかなり悲観的な予想をさらっと口にしている。

少なくとも言えるのは、最終的には今中央銀行が考えているよりも多くの引き締めが必要となること、そして今年のすべての会合で利上げがあったとしても、市場はそれに備えなければならないということだ。

今年のFOMC会合はあと7回残っているので、つまりサマーズ氏は7回の利上げを考えているということだろう。

1回の利上げをいつもどおり0.25%だとすれば、7回で1.75%の利上げとなる。だがサマーズ氏の悲観はそれでは終わらない。彼はこう続ける。

市場は更に、このままインフレが続けば、0.25%より大きい利上げが1回の会合で必要となるという可能性に備えなければならない。

1回0.25%でも政策金利は1.75%まで上がるので、その中に0.50%の利上げも含まれれば、政策金利は2%以上の水準まで上がってゆくこととなる。そうなれば、9回の利上げに耐えた後に市場が暴落した2018年の水準まで政策金利は上がってゆく。当時の政策金利のチャートを掲載しよう。

9回の利上げ後に急落しているのは、利上げと量的引き締めで株価が暴落したからである。当時の記事を参考にしてほしい。

「2018年世界同時株安は大した問題ではない」

2018年にアメリカ経済が9回もの利上げに耐えられたのはトランプ政権の親ビジネス的政策があったからであり、コロナで疲弊した今の経済が同じ利上げに耐えられるとは誰も考えていない。

だがそのレベルの引き締めが必要になるとサマーズ氏は言っている。そうでなければ、インフレ率が2桁を越えて上昇した1970年代の二の舞になるとサマーズ氏は言う。

このまま行けばポール・ボルカー氏(訳注:物価高騰時代のFed議長)が1970年代の終わりにやったことを繰り返す他に手段がなくなる。

しかし1970年代の強烈なインフレ退治はおろか、2018年と同じ規模の金融引き締めでも株式市場は間違いなく暴落するだろう。

しかしサマーズ氏は最後に株の買い手にとっては恐ろしいことをあっさりと言ってのける。

Fedは2018年にミスを犯した。彼らは金利を2.5%まで上げ、それを巻き戻すことになった。

だがそれは長期的な観点からは大したミスではなかった。しかし現在のインフレをこのまま進行させることは本当に深刻で重大なミスとなるだろう。

サマーズ氏は要するに、2018年の世界同時株安のような事態になることは、1970年代のような物価高騰に陥るリスクに比べれば大した問題ではないと言っているのである。もはや株安は避けようがないというサマーズ氏の本意が見て取れる。

結論

今年の初めから言っていることだが、アメリカ経済と株式市場は完全に詰んでいる。

筆者や著名投資家は今の市場が耐えられる利上げは5回程度だと踏んでいるが、その倍に近い量の利上げが必要になりそうなことがこの短い間に明らかになりつつある。

この状況で株式を買い持ちにしている人が居れば聞きたいのだが、どういうシナリオにおいて株価は暴落を免れるのだろうか? 筆者にはその可能性を想像することすら不可能である。

だから株式やジャンク債を空売りし、コモディティを買っているのである。こうした相場で生き残ることは難しいが、不可能ではない。以下の記事を参考にしてもらいたい。