ジョージ・ソロス氏が債券王ビル・グロス氏に託した5億ドルを引き上げ

ジョージ・ソロス氏の保有するソロス・ファンド・マネジメントが、著名債券投資家ビル・グロス氏の運営するジャナス・キャピタルに運用を任せていた約5億ドルを引き出したらしい。WSJが報じている。

ビル・グロス氏が自らの設立したPIMCOを飛び出してジャナス・キャピタルに移籍した直後の2014年11月、ソロス・ファンド・マネジメントは債券王の運用する新たなファンドに資金を託したが、どうやらソロス氏はグロス氏の運用に不信を抱いたらしい。

ビル・グロス氏

ビル・グロス氏は2015年の中国株暴落やドイツ国債急落などを言い当てた債券投資家であり、米国利上げ前の金融市場をよく理解している投資家としてここの記事でもよく取り上げてきたが、一方でグロス氏が自らの予想通りポジションを立てることに失敗し続けていることも確かであり、上に述べた中国株もドイツ国債も彼は自分ではポジションを取っておらず、利益の機会を逃している。

事実、グロス氏のファンドの9月までの年始来リターンはマイナス1.4%となっており、優れた洞察を投資に活かせていないようである。

移籍後のグロス氏に期待したソロス氏

巨大な古巣、PIMCOを追い出されて比較的小規模なジャナスに移籍したグロス氏にとって、著名なソロス氏からの投資は渡りに船であったはずである。ソロス氏が資金を託した直後、珍しくもグロス氏はツイッターで以下のように喜びを露わにしていた。

ソロス・ファンド・マネジメント社のために新たな無成約戦略の口座を運用することを光栄に思います。わたしのチームは御社のための新たな口座を24時間体制で管理することになるでしょう。御社に選ばれ、かつ運用手数料を頂ける二重の光栄です。

しかしソロス氏は結局、ほとんど利益を得られずに口座を解約したことになる。

ソロス氏の真意は

グロス氏の最近の洞察力を評価している人間にとって、ソロス氏の判断はやや興味深いものである。勿論、グロス氏の市場分析を読者として評価することと、実際に自分の資金を預けることとは全く別物なのだが、それでもいろいろと考えさせられるものがある。

一つの可能性は、グロス氏の相場観を信用しながらも、いつまでたっても利益の出ないパフォーマンスにしびれを切らし、資金を引き上げたということだろう。比較対象として、ソロス氏自身のファンドが同期間に優れたパフォーマンスを上げていたのかもしれない。そうであれば資金を戻して自前の運用に切り替えようとするのは自然なことだろう。

一方で、もう一つはグロス氏の相場観にソロス氏が何らかの誤りを発見した可能性であり、こちらであれば、多くの投資家はとって見過ごすことができないだろう。彼以上に現在の市場を理解している投資家はほとんどおらず、彼が何か致命的に間違っていれば、ほとんどの投資家が何か致命的なものを見落としていることになる。

グロス氏の相場観についてはここでも記事にしてきたし、それ以外も個人的にフォローしているが、細かい点で異論はあれ、大きな誤りは発見できないように思う。量的緩和バブルが崩壊に向かう市場で、ソロス氏は多くの投資家が見ていない何かを一人見ているのだろうか? 少し考えさせられるニュースである。


新版 ソロスの錬金術