アメリカのインフレとそれに伴う金融引き締めへの懸念で株式市場は年始から急落したが、いま株式市場は下落幅の半値を戻した。株価暴落の危機は去ったのだろうか? 今回は下落相場というものがどういうものかについて話したい。
反発した株式市場
まずは世界の株式市場の中心にある米国株の現状を見てみよう。以下はS&P 500のチャートである。
下落幅は天井から12%程度で、その半分を既に戻している。
下落相場では米国の大型株が最後まで強い動きを保ち、小型株や(米国から見た)外国株は先に下落するものである。
それで筆者は以下の記事で米国の小型株指数Russell 2000などの空売りを推奨した。
その後、Russell 2000の動きは次のようになっている。
下落幅はS&P 500より大きく、反発も弱々しい。想定通りの値動きとなっている。
これからどうなるか
とはいえ、S&P 500がそこそこの反発を見せた。もう株安は大丈夫なのか? 先月発表された量的引き締めを市場はもう織り込んで次に進むのだろうか。
これまでの下落とそこからの反発という短期的な動きに囚われている投資家も多いかもしれないから、この記事で思い出してほしいのは下落相場とはどういうものかという時間感覚である。下落相場とは数日で一気に落ちるものではなく、投資家が思っているよりも長い時間をかけて落ちてゆくものである。
例えば2008年のサブプライムローン危機による下落相場でのS&P 500のチャートを見てもらいたい。
天井は2007年夏、そして大底は2009年春である。つまり、この下落相場は1年半続いた。長期チャートを見ていると忘れがちだが、その1年半の長期トレンドの中には大きな急落も力強い反発もあった。今、読者は同じことを経験しているということを思い出してほしいのである。
一方で、今回の状況と比較的近いのは何度も言及している2018年の世界同時株安である。
この時も同じようにFed(連邦準備制度)のパウエル議長による金融引き締めで市場が急落した。何度も見せているが、以下が当時のS&P 500のチャートである。
この時は2018年1月末に株式市場が一度急落し、その後半年以上も反発を続けたが、結局秋に本格的な下落を開始した。
ここで筆者が言いたいのは、これは下落が2段構えになった比較的珍しい下落相場だということである。一度目の下落を下落開始ととらえると、この相場は1年ほど続いたことになる。一度目の下落幅が10%強となっている点は現在の下落と似ている。
今回の下落相場
では今回はどちらのタイプになるだろうか? 読者には予想が付いたかもしれないが、筆者が投資家に薦めるのは、どちらに転んでも利益の出るポートフォリオを組んでおくことである。
リーマンショック型になるのであれば、長期的には一貫して下落しているので押し目買いなど問題外である。一方で2018年型になるとしても、当時のチャートが半年以上の時間をかけても2回目の天井が1回目の天井を多少上回った程度までしか回復していないことに着目したい。
そして何より、今回は悠長に秋まで待っていられる時間的猶予はないと筆者は考えている。政策金利を1%に留めたまま2022年の半ばに差し掛かれば、現在7%のインフレ率は恐らく10%近くまで高騰しているのではないか。
そうすれば金融市場はそれほどの物価高騰を1%程度の政策金利で止められるわけがないと嫌でも気付くことになる。そうなれば政策金利を先取りする2年物国債の金利は更に上昇する。
ここで、レイ・ダリオ氏が以下の記事で「すべての資産は互いに競争しなければならない」と言ったことを思い出したい。
通常株式の期待リターンは10年物国債や30年物国債の金利と競争することになるが、もし2年物国債の金利がそこまで上がれば、金融引き締めでぐらついている株式投資の期待リターンが2年物国債の金利に負けてしまうことが有り得るかもしれない。そうなれば投資家は株式を捨てて国債に走るだろう。大暴落の開始である。
結論
2018年ならば2回目の天井まで株式を持ち続けるトレードが考えられたかもしれないが、今年はお薦めしないということを筆者は言い続けている。
そもそもこうした相場でも大きく利益を出すトレードが十分に存在するにもかかわらず、そのようなリスキーな選択肢を選ばなければならない理由があるだろうか? 以下の記事をもう一度読んでもらいたい。