Guggehneim Partnersのスコット・マイナード氏がBloombergのインタビューで、面白いことにFed(連邦準備制度)のバランスシート縮小に賛成しながら利上げを批判している。
利上げ反対、バランスシート縮小賛成
実際にFedが主張しているのは政策金利を上昇させる利上げと、債券の保有量を減らしてバランスシートを縮小させる量的引き締めを両方同時にやるということである。
この2つの政策の内、マイナード氏は量的引き締めの方には賛成している。彼は次のように述べている。
今適切なのは、バランスシートを縮小し、金利が自分で市場における均衡水準を見つけられるようにすることだ。
しかし一方で同時に行われる利上げには反対している。量的引き締めだけを単独で行うことを勧めているようだ。
Fedは今年バランスシートを縮小して金利を上げると言っているが、その考えは2018年に経験した大惨事を導く公式だ。2018年には市場ではなくリスク資産が金利の適切な水準を決定した。
どういう意味か分かるだろうか。
2018年の債券市場
2018年はFedのパウエル議長による利上げと量的引き締めによって株式市場が暴落した年である。最近の状況とあまりにも似ているのでここでは何度も取り上げてきた。
これらの記事で当時の株式市場の動きについては世界中のものを取り上げたが、債券市場がどう動いたかには触れていなかったので、ここで当時のS&P 500と長期金利の推移を並べたものを掲載しておこう。
10月に株価が下落した時、少し遅れて長期金利も同じように下落しているのが分かるだろうか。
長期金利とは10年物国債の金利であり、国債の金利低下とは国債価格の上昇のことである。つまり、株式やその他のリスク資産から逃げ込んだ資金が大量に国債に流れ込んだ結果、株価暴落時には金利が下がるのである。
マイナード氏の言う「リスク資産が金利を決める」という言葉はそれを言いたいのだろう。それでは「市場が金利の均衡水準を決める」ことにはならないということである。
利上げ反対の真意
では何故利上げは反対なのだろうか? マイナード氏は元連銀総裁らが3%以上の利上げの可能性に言及したことについて次のように批判した。
彼らの理論は「われわれはワシントンにいる頭の良い集団だから正しい金利の水準を人々に教えることが出来る、そして市場が崩壊するまで利上げと量的引き締めを続けるだろう」というものだ。だがこれは大惨事を導く公式だ。
何故かは分からないが最近の政治家は考える頭もないのにすべてを自分で決めたがる。金利はこの水準であるべきだ、誰が現金給付を受け取るべきだ、原油と天然ガスは使ってはならないので供給を制限する、云々というわけである。
しかし実際にはそれらのすべてが現在の物価高騰の原因である。
インフレは彼らを野放しにしたための人災に他ならない。にもかかわらず、彼らはまた自分で金利を決めようとしている。それがマイナード氏の言いたいことなのだ。
70年代のインフレ退治
ではどうすれば良いのか? マイナード氏が推奨するのは1970年代に物価が高騰した時に当時のFed議長のポール・ボルカー氏が行なった政策である。
ボルカー氏は中央銀行がコントロールする対象を政策金利からマネーサプライ(経済に流通する資金の量)に変更した。結果として金利はFedが固定した水準に縛られずに上下動するようになり、インフレを反映した短期金利は高騰した。
つまり、マイナード氏は金利が上昇することに反対しているのではない。中央銀行に金利のコントロールを一切止めろと言っているのである。
マイナード氏はこう続ける。
バランスシートをゆっくりと縮小し、短期金利は自然に上昇するに任せる。短期金利が上昇すればインフレ率は自然に下がり始める。
Fedが金利を恣意的に決定し、四半期ごとに0.25%ずつ上げる云々などというように恣意的に動いた場合、彼らが金利が高過ぎると知ることの出来る唯一の方法は株式市場の暴落のような市場の調整を見ることだ。
これが面白いところではないか。金利が市場によって決められていれば、金利が上方向に行き過ぎれば自然に下がり始める。しかし中央銀行はどうやって自分の行き過ぎを知るのか? 株価の暴落を見る時以外にないが、そうなった場合には大抵手遅れなのである。
結論
現在のインフレとその結果としてのこれからの株価暴落の原因は中央銀行による紙幣印刷であるから当然なのだが、最近著名ファンドマネージャーらがこぞって中央銀行に仕事を止めさせろと言っている。
ガンドラック氏などは中央銀行のエコノミストを全員解雇すれば財政赤字と労働力不足が両方解決するとジョークを飛ばしている。
そもそも何故政府は金利をコントロールしたかったのか? 政治家が自分の票田にお金をばら撒くための資金を政府予算から持ってくるためには借金のコストが低い必要があったからである。
国民のためを考えるならば、金利は市場に任せておけば良かったはずである。物価高騰による株価暴落はもう避けようがないから今更言っても仕方がないのだが、前世紀に大経済学者ハイエク氏が警告していたことをもう一度読んでもらいたいのである。