マイナード氏: アメリカは2018年世界同時株安を繰り返そうとしている

Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏が顧客向けのレポートでアメリカの利上げがインフレではなく株価を殺してしまう可能性について語っている。やはり優れた投資家は誰もが2018年の株安を思い出しているようである。

量的引き締めの脅威

Fed(連邦準備制度)は元々インフレは一時的なものに過ぎないのでゼロ金利政策を当面維持すると言っていたが、ここ数ヶ月の間にまず量的緩和を縮小し始め、次に今年3回の利上げを宣言し、しかも最近では一部メンバーがバランスシートを拡大した量的緩和を逆回し(縮小)する量的引き締めにまで言及するという豹変ぶりを見せている。

量的引き締めとはつまり、市場に資金を注入する量的緩和とは反対に市場から資金を吸い上げるということである。Fedの一部メンバーは物価高騰を止めるために量的引き締めもやむを得ないと考えている。

この状況についてマイナード氏は次のように述べている。

2018年にFedが利上げを行いながら実行した前回のバランスシート縮小が金融市場にどれほど酷い結果をもたらしたかを考えれば、Fedがまた利上げとバランスシート縮小を同時にやろうとしていることは興味深いことだ。

Fedが最後に行なった金融引き締めは、2018年の世界同時株安を引き起こした。以下は当時の株価チャートである。

当時の議長も今と同じパウエル氏であり、今回インフレが一時的なものではないと長らく認めなかったのと全く同じように、当時彼は株安が自分の金融引き締めのせいだということを認めようとはしなかった。

これは当時も書いたことだが、そもそも量的緩和で投資家がどれだけ株を買ってきたかということを考えれば当たり前のことである。

量的緩和で株価が大いに上がったのだから、量的引き締めでは株価が大いに下がらなければ理屈が合わない。2018年の相場では筆者だけがこの当たり前の理屈を暴落前から主張し続けたが、株価の高騰にのぼせ上がった周囲のファンドマネージャーやバンカーは誰も耳を貸さなかった。バブルとはそういうものである。

インフレが量的緩和バブルにとどめを刺す

だが今回の相場では2018年と違う点が1つある。インフレになっているということである。

2018年の世界同時株安は最終的にパウエル氏が間違いを認め、金融引き締めを撤回したことで収束した。

しかし今回は金融引き締めを撤回すると物価高騰がそのまま継続してしまう。株価が暴落してもインフレは金融引き締めを強いるだろう。金融引き締めが止められないとなれば、株価は何処まで下がってゆくだろうか。

特に根拠もなくリフレ派に騙されてインフレを賛美していた人々は、インフレになってようやく物価は安い方が良いという当たり前の事実に気付くようになる。

12才児でも分かるような事実に誰も気付かなくなる現象のことをバブルと呼ぶのである。あるいは人間は元々12才児よりも頭が悪いのかもしれない。筆者はもうこれはどうしようもないと思っている。人はあまりに簡単に騙されてしまう。

マイナード氏は次のように言う。

明らかに金融市場は投機家の天国となった。ミーム株、ジャンク債、アート、住宅市場、ほとんどすべてのものが青天井に上がっている。

この状況にどう収拾を付けられるだろうか。金融引き締めは緩和によって引き起こされたバブルに終止符を打ち、インフレを抑制できるだろうか。

マイナード氏の答えは、バブルに終止符を打つことは出来るがインフレは抑制できないという何とも悲観的なものである。

もし市場に予想外のショックが与えられれば、それはインフレには即座に影響を与えはしないが、既に過大評価されている資産価格には即座に影響を与え、消費者心理を冷やし経済を不安定化させるだろう。

だが予想外のショックを与えないならば、つまりインフレ率が7.1%の状況で市場の織り込み通り政策金利を1%程度までにしか上げないならば、間違いなく物価高騰は継続するだろう。

結論

現状の問題は明らかである。金融引き締めを行えばインフレよりも先に株式市場が死んでしまう。しかし行わなければ物価が高騰し、後でより大きな金融引き締めを強いられる。アメリカ経済はもう詰んでいるのである。

投資家に出来ることはいくつかある。まず前回金融引き締めが行われた2018年の世界同時株安を勉強することである。

そしてその上でどういう投資が出来るのか考えてみるべきだろう。繰り返しになるが2022年はかなり難しい相場になる。読者の幸運を祈りたい。