年始から著名投資家の相場観の紹介に忙しかったため、なかなか書けていなかったが、2022年の投資戦略について包括的に書いてみよう。
インフレと景気後退の合わせ技
2022年のテーマはスタグフレーションである。
スタグフレーションとはインフレと景気後退が同時に来ることである。物価は需要と供給に左右されるが、景気が後退すると通常需要も後退するため、物価押し下げの要因となることが多い。つまりはデフレである。
ここ数十年の間、経済のテーマはデフレと景気後退だった。インフレが起こることはなかった。だがデフレにあぐらをかいて、どんなに紙幣を印刷してもインフレにはならないと高をくくって紙幣をばら撒き続けた結果、アメリカでは前年比7.1%の物価高騰が起こっており、しかも収拾の目処は立っていない。
リフレ派の似非経済学者たちにインフレは良いものだと教えられてきた多くの人々は、スーパーの食料品の値段が上がり始めてようやく、インフレとはものが同じ値段で買えないことだという事実に気づいたようである。面白い話ではないか。政府やマスコミの言うことを信じるからそういうことになるのである。
結果として中央銀行は金融緩和の撤回、そして金融引き締めを強いられている。しかし利上げを行うとインフレが抑制されるより先に株価が暴落するということは、以下の記事を読んだ人には確実に思える話だろう。
インフレ対策とは違うスタグフレーション対策
このままでは物価高騰は止まらず、先に景気後退が来そうである。景気後退にもかかわらず物価上昇が収まっていない状態、つまりスタグフレーションは、著名投資家やここの読者には2022年のメインシナリオである。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏などは半年以上前からこの状況を的確に予想していた。
今後の経済動向を予想するのは簡単である。それはスタグフレーションである。
しかし投資家にとってはややこしい問題が待ち構えている。スタグフレーションに賭ける投資は、インフレに賭ける投資よりも複雑だということである。
単にインフレに賭けるだけならば、ゴールドやシルバー、原油や大豆やコーンなどを買えば良い。暗号通貨も上がり続けるかもしれない。物価が上がるのだから、ものを買えば良いのである。金融市場で売買できるこうした商品はコモディティと呼ばれている。
事実、コモディティ銘柄はインフレを織り込んで1年半前から上昇してきた。ここではそうした動きを最初から報じ続けている。
例えば原油価格は次のように推移している。
だが2022年、金融引き締めは経済成長を殺してしまうだろう。そうなれば株価は暴落し、それはこうしたコモディティ価格にもマイナスに働く。リーマン・ショック時に金価格が暴落していることを思い出したい。
スタグフレーション相場では、単にコモディティ銘柄を買うだけでは駄目なのである。
スタグフレーションへの賭け方
では投資家はどうすれば良いだろうか?
まずはスタグフレーションとはそもそも何であるかを思い出したい。まず名目経済成長率とはインフレ率と実質経済成長率の和である。
- 名目経済成長率 = インフレ率 + 実質経済成長率
スタグフレーションとは、この内インフレ率はそれほど下がらないが、実質経済成長率が下がってしまう状態のことである。結果として名目経済成長率は必ずしも下がるわけではない。
この名目と実質ということが重要である。例えば株価はインフレを差し引きしていないので名目の数字であり、(銘柄にもよるが)インフレはプラスに働くものの実質経済成長率の減少はマイナスに働く。
この状況で株式という資産クラスが微妙なのは、インフレというプラス要因と実質経済成長率減少というマイナス要因の両方の影響を受けるからである。グロース株など銘柄によってはインフレもマイナス影響となり、そうしたものはむしろ空売り対象だろう。著名投資家も手を引き始めている。
そこで、投資家は「名目の成長率からインフレを差し引いたものが下落する」ことに賭ける必要があることが分かる。
名目のものとは、例えば株式である。
一方でインフレに連動するものには金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティ銘柄がある。
ここまで言えば多くの読者には分かるのではないか。株式を空売りして、同額のコモディティを買うのである。そうすれば「名目からインフレを差し引いた、実質的な価格減少に賭けるポジション」が出来上がる。それこそがスタグフレーショントレードである。
スタグフレーションで空売りすべきもの
しかし株式と言っても様々な種類がある。2018年の世界同時株安からの読者は実体験として覚えているだろうが、株価暴落と言ってもすべての銘柄が同時に下落を始めるわけではない。
2018年の例ではまず中国株などの新興国株が下落し、次に日本やヨーロッパなどの株式が下落し、米国株が下落した。
同じ国の株式市場でも株価指数に採用されている大型株が下落するのは最後で、日本のマザーズやアメリカならRussell 2000など小型株指数から先に下落する。詳細は当時の記事を読んでもらいたい。
また、ガンドラック氏は大型株より先に下落するものとしてジャンク債を挙げており、金利上昇に耐えられない銘柄としては随一のものであるので、筆者もお勧めしている。
こうした階層構造をランク分けすると次のようになるだろうか。
- ランク1: S&P 500など
- ランク2: Russell 2000、日本株、欧州株、ジャンク債など
- ランク3: 日本や欧州の小型株、新興国株など
現状、ランク1はまだ上昇基調であり、ランク2は横ばい、ランク3は下落済みという感じである。
2018年の例ではランク2はランク1が下落する相場の最後まで上がらずに横ばいを続けたケースが多かった。日本株については最後に一瞬だけ上がったのでそういう可能性もあると考えるべきだが、ランク2の中で分散して空売りしておけばリスクは大きくないだろう。
スタグフレーションで買うべきもの
一方で同額買うべきものはコモディティである。あるいは株式の中でもコモディティを産出する銘柄についてはコモディティ扱いしても良い。小型株指数とのロングショート(買いと空売りの組み合わせ)はまさにスタグフレーショントレードである。
具体的にはどうだろうか。筆者はそろそろゴールドに手を出して良いと考えている。(しかし上記の空売りと組み合わせたスタグフレーショントレードとしてである。)
ゴールドはこれまでコモディティの中では売られてきた方である。これは利上げがゴールドにマイナスだったからだが、現状の利上げペースではインフレを止められないということがはっきりしてきた今はゴールドに風が向き始めているだろう。
また、現在のインフレのもう1つの原因は脱炭素政策である。化石燃料の供給を強制的に減らしたために化石燃料が高騰している。
脱炭素に取り憑かれたフランスなどは天然ガスの高騰に現金給付で対応してまさに火に油を注いでいる。
彼らはどうしても化石燃料を使いたくないため、ヨーロッパでは原子力発電に予算が組まれるなど原発が再注目されている。
原油や天然ガスに直接賭けるのも悪くはないが、天然ガスや原子力などの関連株式銘柄に割安なものがまだ残っている。
そして最後に紹介するのが農作物である。今回のインフレの問題は1970年代以来の大問題だが、農作物にはまだ10年来の高値さえ越えていないものが山ほどある。
例えばとうもろこしである。
他には大豆もある。
とうもろこしと大豆はバイオエタノールの原料となるためエネルギー価格高騰と連動する。
連動しないものとしては、小麦などはまだまだ安いだろう。
また、コモディティでも中国バブル崩壊の影響が大きいものは避けるべきだろう。中国の影響の少ないコモディティと大きいコモディティでロングショートを行うことも出来る。中国については詳細は別の記事に譲りたい。
結論
以上、買いと空売りを組み合わせたスタグフレーショントレードを紹介した。まとめると、買うべき銘柄は以下のものである。
- ゴールド
- エネルギー資源や関連銘柄の安いもの
- とうもろこしや大豆、小麦など農作物
空売りすべき銘柄は以下のものである。
- 米国小型株指数
- 日本株やヨーロッパ株
- ジャンク債
- 中国関連コモディティ
このように、スタグフレーショントレードはインフレトレードよりもよほど難しく、しかもここ何十年もスタグフレーションは起こったことがないため、経験ある投資家は世界にもほとんどいないだろう。
また、物価水準に基づいたトレードの第一のものは米国債のトレードであり、筆者の第一のポジションもそれであることは、もう一度述べておきたい。以下の記事で詳しく説明している。