DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が自社主催の会議で皮肉を飛ばしまくっている。親しい人々と話しているためか、Bloombergなどでのインタビューよりも自由に話しており、いつものインタビューより見ものになっている。
現金給付とインフレ
ガンドラック氏はアメリカで現金給付が引き起こした7%のインフレを次のように皮肉る。
4時に10億ドルを国民全員の銀行口座に振り込み、5時にまだインフレが起こっていなければ、フェラーリの店舗前の行列はなかなかの見ものになっているだろう。
これは大げさな言い方だが、現金給付とは要するにそういうことだ。コロナで生産能力が落ちている状況で何兆ドルもの資金をばら撒けば、物価が上がるということは頭の良い12才児なら分かるだろう。
しかしFed(連邦準備制度)のパウエル議長は残念ながら頭の良い12才児ではなかった。ガンドラック氏ら著名投資家がインフレを警告してから1年以上にわたり、インフレは一時的ですぐ収まると言い続け、最終的には誤りを認めることとなった。
ガンドラック氏は次のように続ける。
これはFedが面目を失った数多くの例の1つに過ぎない。「サブプライムローンは制御されている」「インフレは一時的だ」、しかし本当に分からなかったのだろうか?
中央銀行が何故ここまで外し続けるのか、筆者を含め金融の実務家にはむしろ謎である。読者には分かるだろうか? 筆者には何故彼らがここまで逆を行けるのか正直まったく分からない。
インフレを支える賃金上昇
また、会議の参加者が指摘したのは現金給付はものを買うために使われるから物価を上昇させるだけでなく、例えば共働きの夫婦などは現金給付や手厚すぎる失業保険のために片方が働かなくとも良くなったということである。
失業保険が手厚すぎるために人々が働くよりもむしろ失業したがるというのはガンドラック氏が以前より指摘していたことである。
それで労働者の数が減り、企業は労働者を確保するためにより高い賃金を払う。そしてより高い賃金とインフレへの恐れ、そして低金利は、人々を住宅購入に向かわせる十分過ぎる動機である。そして住宅バブルが止まらなくなる。
ガンドラック氏は次のように続ける。
消費者物価は7%前後の上昇率で、アトランタ連銀によると賃金上昇率は4.3%、そして30年の住宅ローン金利は3.25%となっている。つまり、ローン金利はインフレを差し引くとマイナス金利となっている。
賃金が住宅ローン金利よりも早く上昇すると確信している場合、ローンは実質的に無料の資金だ。
何故ならば、金利は今後の賃金上昇で賄えると考えるからである。もっと言えば、Fedが3回利上げを行なって政策金利が0.75%になったとしても、インフレ率が7%なら、どうして0.75%の金利でお金を借りて金属や穀物などを買わないだろうか? 0.75%を払っても買ったものが7%上昇するのである。
ガンドラック氏はこう続ける。
それが住宅市場の背景にある要因であり、住宅バブルが近い内に落ち着くことはほとんどありえない。
インフレと株式市場
中央銀行はこのようにしてインフレ予測に失敗し、早く対処していればそうならなかったであろう水準まで利上げをすることを強いられる。
それは明らかに株式市場と実体経済を殺してしまうだろう。そして景気後退に陥り、金融緩和が再開される。これをもう何十年も繰り返してきたのである。
ガンドラック氏は次のように言う。
同じ映画を繰り返し見ているようだ。そして同じ映画が繰り返されるたび、政策金利は低くなってゆく。それが40年も続いている。経済を支えるために必要な政策金利がどんどん低くなる。
それが金融緩和の限界である。そうして市場と経済が低金利に依存してゆくために、少しの利上げで両方が崩壊するようになる。ガンドラック氏は次のように補足する。
最後の利上げでは、金利をたった2.5%近辺まで上げたところで市場は崩壊した。
それが2018年の世界同時株安である。当時の記事を見てもらえば分かるが、パウエル氏は最後まで責任を認めなかった。
今回はどうなるだろうか? 彼はこう続ける。
ここ何ヶ月かの債券市場の動きを見ていると、現在の市場では政策金利が1.25%まで上がっただけで市場が崩壊してしまいそうだ。
しかしガンドラック氏は今の株価水準について割高でないと主張する。
株式市場が他のすべてのものと同じように投機でバブルになっていることには同意するが、10年物国債の金利が同じ水準にある限り、歴史的水準と比べて株価は高くない。
だが問題は次の部分である。
しかし少しでも金利が上がり始めると、非常に急速に割高になってゆく。
そして4回前後の利上げで崩壊するだろうということである。
結論
乗りに乗ったガンドラック氏は次のようなことまでぶっちゃけてしまう。
はっきり言ってFedがある意味が分からない。Fedは2年物国債の金利で代替可能なのではないか?
そもそもパウエル議長が利上げに転換せざるを得なくなったのは、2年物国債の金利が利上げを織り込み始めたからである。市場が利上げは不可避だと先に判断し、それにパウエル氏が従った。
ガンドラック氏は次のように続ける。
2年物国債がゼロ近辺にある時には、利上げがないと分かる。0.75%まで上がれば、2022年に恐らく3回の利上げがあるということが分かる。何故か? 他でもない2年物の金利が利上げ3回と同じ水準まで上がったからである。
700人以上の博士号を持ったエコノミスト? 何というお金の無駄遣いだろう。ブルームバーグ端末で2年物国債を眺めていれば十分じゃないか。
それに彼らを全員解雇すれば賃金インフレの抑制の助けにもなるのではないか。
日銀などもう5年もほとんど何もしていないではないか。そして彼らの高い給料を自分が払っているということを納税者は分かっているのだろうか? そしてこうしたことはすべて大経済学者のフリードリヒ・フォン・ハイエク氏が何十年も前に主張していたことなのである。今更ではないか。