世界最大のヘッジファンドBridgewaterを創設したレイ・ダリオ氏がMercatus Centerのインタビューでドルや円など為替市場について語っている。
債務は通貨を暴落させるか
これは前回のインタビューの続きである。
テーマはアメリカの負債に移る。アメリカは莫大な政府債務を負っており、しかも財政赤字も経常収支も増え続けている。
ダリオ氏の意見によれば、アメリカはドルが基軸通貨であったことによってこの状況を維持出来ているが、維持出来てしまっているがためにアメリカの負債は膨れ上がることになった。
そこで司会者は1つの疑問を挟む。ドイツや日本は通貨が基軸通貨でないにもかかわらずアメリカより低い金利で借金が出来ている。ではドルが基軸通貨であることはそれほど重要だろうか?
ダリオ氏はこう答える。
ドイツと日本は国外にほとんど債務を負っていない。
アメリカの債務が問題だとするダリオ氏の議論に対して、日本の方が負債は多いではないかと思う読者もいるかもしれない。
司会者も、「日本は途方もない債務を負っている、それは国内に向けられたものだが、それでも日本の国債は引き受け手を見つけることが出来る」と続ける。
ダリオ氏は次のように応答している。
しかしそれは国内の債務だ。別の言い方で言えば、日本政府は国債を購入する自国民を見つけることが出来る。日本は差し引きで債権国だ。そして米国は差し引きで債務国だ。
ここまでの議論が分かるだろうか?
政府債務と対外債務
まずアメリカと日本を含むいくつかの国の政府の純債務(GDP比)を並べてみよう。
- アメリカ: 99%
- 日本: 167%
- イギリス: 92%
- スイス: 22%
- オーストラリア: 34%
- トルコ: 32%
しかしこれは単純に政府がいくら借金しているかという数字であり、貸し手や借り手が国内か国外かという話は考慮していない。
では次に対外純資産、つまりその国が国外に対してどれだけの資産(マイナスは負債)を持っているのかを並べると次のようになる。
- アメリカ: -65%
- 日本: 63%
- イギリス: -26%
- スイス: 98%
- オーストラリア: -41%
- トルコ: -35%
ダリオ氏が「日本は差し引きで債権国、アメリカは債務国」と言う時、指しているのはこちらの数字の方である。
つまり、ダリオ氏によれば日本政府の莫大な借金にもかかわらず日本円が暴落しないのは、対外的には負債ではなく資産を持っているからだということである。そして言うまでもなくこの資産は高度経済成長期の産物であり、この対外資産は利子などの形で外貨を稼ぎ、日本の経常収支を押し上げている。
だがこの資産はどんどん使われてゆくだろう。家計の持つ資産の多くは高齢者が持つものであり、その大部分は相続税という形で日本政府が徴収し、日本政府はそのお金を好き勝手に使うだろう。資産保有者の高齢者への偏りを考えれば、日本に経常収支をもたらしていた資産は20年もすればかなり減っているはずだ。
つまり現状では政府債務が膨大でも対外資産があれば日本円はそれほど下落しなかったものが、20年ほどで莫大な政府債務と対外負債をかかえる国になる可能性がある。
政府債務と対外負債の組み合わせ
それがアメリカの現状だが、先進国で同じ状況になっている国は少ない。辛うじて近いのはイギリスとオーストラリアだが、上記のように数字はアメリカほどは酷くないのである。そして途上国で政府債務と対外債務の多い国がどうなっているかと言えば、トルコリラの現状を思い浮かべれば良いだろう。上方向がドル高リラ安である。
アメリカがこうなっていない要因の1つはドルが基軸通貨であるからで、基軸通貨であればドルを買う需要が一定数いつも存在するからである。
しかしそれでも限界はある。だから今アメリカではインフレが起こっているのであり、インフレが起こった(つまり貨幣価値が毀損された)にもかかわらずドルの為替レートが長期的に影響を受けないということは有り得ない。ドル円は株価に従って上昇しているが、これは短期的な動きである。
アメリカでは年間6%物価が上がっている。これはドルの価値が実質的に6%落ちたということであり、これはいずれ為替レートに適用される。だがそのタイミングは数年のラグがあるということは、以下の記事で論じている。
では為替レートにインフレが織り込まれてドルが下落するタイミングがいつかと言えば、株価の下落と似たタイミングとなるだろう。
日本円はまだ無事である。しかし政府債務が167%の状態で高度経済成長期の遺産を食い潰したあと日本がどうなるか、一度は考えてほしいものだが、東京オリンピックとGO TOトラベルにもかかわらず自民党を再選させた日本人には何を言っても無駄だろう。日本国民は殴られても次の日には忘れている民族である。