世界的にインフレが大きな懸念となる中、各国の中央銀行は物価高騰を抑えるための金融引き締めを渋っている。アメリカはいまだ量的緩和を終了できておらず、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は金融緩和を続ける構えで「マダム・インフレーション」と揶揄されている。誰もみずから株価を下落させたくないのである。
そうした中で痛みを伴ってでも早く行動し早く傷口を塞ぐために利上げを開始した国がある。イギリスである。
イングランド銀行、予想外の利上げ
イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は12月16日、予告なしに政策金利を0.1%から0.25%へ利上げした。ベイリー総裁は中央銀行にとって事前にガイダンスを出すことは有害だと考えている中央銀行家だから、Fed(連邦準備制度)のように事前に予告しなかったことに驚きはないだろう。
イギリスの現在のインフレ率は5.1%(前年同月比、以下同じ)であり、莫大な現金給付を行なったアメリカの6%よりも多少ましである。グラフは最新月の分を含んでいないが次のようになっている。
それでもイングランド銀行は先に動いた。内部でいち早くインフレの危険性を指摘したのは以下の記事で報じたようにハルデーン氏だった。3月の時点でインフレの危険性を指摘できた中央銀行家が他に居ただろうか。
そして最終的にはベイリー総裁もそれに同意したということである。今回の利上げは8対1の多数によって支持されている。
開始された利上げ
イングランド銀行は今後、イギリスのインフレ率は冬のあいだ5%前後、春には6%まで上がると予想している。ちなみにこの予想は11月の予想に比べて上方修正を余儀なくされている。
しかしそれでもイングランド銀行は他よりも早く動いた。アメリカは量的緩和を3月頃までに終了、その後利上げを行うと考えられている。アメリカが金利を上げない間、つまりインフレ率が6%であるにもかかわらずゼロ金利をいまだに維持している間に、インフレは更に加速するだろう。
利上げは当然経済と株式市場にとってマイナスとなる。ただ、イギリスの株式市場は今のところ過剰反応はしていないようだ。
歴史的には、1回目の利上げですぐに株価暴落となることは少ない。以下の記事を参考にしてもらいたい。
しかしそれでもコロナで疲弊した現在の実体経済は何処の国も脆弱であり、株式市場もそれほど長くは耐えられないだろう。
結論
それでもイギリスはいち早く利上げを開始した。個人的にはこれが正しい選択だと思う。火は小さい内に消火するに限るからである。そうすれば消費者に及ぶ物価高騰の被害もアメリカやユーロ圏、そして日本よりも小さくなるだろう。
筆者はどの国が先にインフレに向き合うか興味を持って見ていたが、やはりイギリスだった。中東人をヨーロッパに甘言でおびき寄せて地中海で溺れさせる移民政策から一番最初に手を引いたのもイギリスだった。
そしてもっと言えば、2度の世界大戦で2度とも勝っているのもイギリスなのである。それは偶然でもイギリスが軍事的に強かったためでもない。イギリス人は沈みゆく船を嗅ぎ分けることに関して天賦の才を持っている。インフレ政策は沈みゆく船だということである。