最近はインフレや中国恒大集団の問題など暗いニュースばかり出ているように思うので、今回はそこから少し離れた話題を取り扱いたい。
株式投資の授業
債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がFEG INSIGHT BRIDGEのインタビューで子供の頃の投資の授業の話をしている。
子供の頃学校で社会学習の授業があり、株式市場をウォッチするという課題を課されたことがあった。教師に指示されたのは、生徒が株式を1つか2つ選んで監視するということだった。
将来大投資家になるガンドラック少年はどの銘柄を選んだのだろうか? 彼は次のように続けている。
わたしの叔父はZeroxの調査部長で、父にZeroxの未来は輝かしいものになると言っていた。父は実際にZeroxの株を買った。
この社会学習の授業があったのはちょうどニフティフィフティ相場の頃で、当時革新的だった技術を持っていた企業は力強く上がっており、Zeroxもそうした銘柄の1つだった。
ニフティフィフティ相場とは、1970年代前半までの上げ相場のことで、特にニフティフィフティと呼ばれる50銘柄が急上昇した。
だからわたしはZeroxを監視銘柄に選んだ。しかし後で明らかになったのは、この授業が始まったのはニフティフィフティ相場の丁度天井だったということだ。
恐らく1973年のことだったのだろう。年代を聞いてどういう時代か分かった読者もここには少なくないはずだ。1970年代はニクソンショックにおける金本位制廃止から始まるインフレの時代で、ここでは何度も取り上げているからである。
金本位制の廃止、つまり実質的に無制限に紙幣を印刷できるようになったという事実は、始め株価を上昇させ、その後インフレが止まらくなり金融引き締めが始まるとすぐに株価は半値以下になった。当時の株価チャートは以下のようになっている。
まるでこれからの相場を暗示するかのようなチャートである。
ガンドラック氏は次のように続ける。
わたしはZeroxの株が毎日欠かさず下落するのを見ることになった。
良い日には株価は0.5%下がり、悪い日には3%下がった。授業が終わった時、Zerox株は50%下がっていたと思う。
株式投資をこれから学ぼうという少年少女たちは呆然と株安を眺め続けるほかなかっただろう。
株価は何故上下するのか
生徒たちには可哀想な話だが、実際には投資せずに下落相場を眺めていた彼らは実は幸運で、一番不幸なのは上昇相場しか知らずに実際にお金を賭けている投資家(現在の相場には数多く居そうである)である。
ガンドラック氏はこの時、銘柄の良し悪しで株を選ぼうとしたはずだ。教師もそのように銘柄を選ぶように生徒に言っただろう。しかしそれは株式投資をする方法としては完全に間違っているのである。
何故ならば、株価はその銘柄自身の良し悪しよりも相場全体が上げ相場か下げ相場かということに大きく影響される。それを考えるのがマクロ投資である。上記のチャートのように相場全体が半値以下に暴落するような相場では、どれだけ良い銘柄を選んでもほとんどすべての株式は下落せざるを得ない。
逆に上昇相場ではどれほど駄目な銘柄でも大きく上がる可能性がある。相場全体のトレンドを何も理解せずに自分で銘柄を選んで株を買った投資家は、きっと苦労して選んだのだろうから、仮に論拠が間違っていたとしても自分の銘柄選択が正しかったから上がったのだと思いこむようになる。
そういう投資家がどうなるかと言えば、下げ相場が始まった時に「自分の銘柄選択は正しいから上がるはずだ」と思い込み、自分の株が半値になるまでその銘柄を持ちづづけるのである。
結論
だからジム・ロジャーズ氏は上昇相場では何も知らない若者を雇って彼に任せろと言っている。
自民党の愚かな政策のお陰で日本では来年から学校で投資について教えられるようだから、大変残念ながらこうした間違ったバイアスを植え付けられた少年少女が量産されそうな気がしている。
教師に投資を教える能力はない(本来その必要もないはずだ)し、学校に来るであろう証券会社の社員にも投資を教える能力はない(本来その必要があるはずだ)。
ただ1つ運が良かったのは、来年の相場がかなり酷いものになる確率が日に日に増えているということだろうか。少なくとも「銘柄選択」で間違った自信を得て、その後の下落相場で大損することはないだろう。教師や証券員は面目を失うだろうが、子供たちにとってはその方が良いはずだ。