現在のアメリカの物価高騰はインフレ第1波に過ぎない

金融市場がアメリカの物価上昇を懸念し始めてから数ヶ月が経つが、実際今後のインフレ率はどう推移してゆくだろうか。筆者がここで議論したいのは、恐らくインフレ率は一方的に上昇を続けてゆくわけでもなければ、中央銀行の引き締めで一方的に下がってゆくわけでもないだろうということである。

今後のアメリカのインフレ見通し

リーマンショック以来の紙幣印刷が現金給付によって臨界点を超え、世界経済は風前の灯となってしまった。そして風前の灯となった経済がどう振る舞うかということは、それほど単純ではないだろう。

アメリカでは明らかに物価が上がっており、投資家ではない普通の人々さえもインフレを懸念している。このインフレの勢いは来年には輸入物価を通して日本にも入ってくるだろう。

今後の推移は2パターンしかないように見える。Fed(連邦準備制度)が金融引き締めを強めて株価と経済を墜落させ、物価はデフレに向かうのか、金融政策を十分引き締めることが出来ずに物価高騰が止まらなくなるかである。

しかし実際のところ、今後の物価見通しはそれほど単純ではない。それを示唆するのが米国債の金利である。

まず、2年物国債の金利はこのように上がっている。短期金利である2年物国債の金利は、今後の政策金利の見通しに影響される。Fedのパウエル議長はようやくインフレ抑制にやる気を見せ、今後利上げが行われるとの観測をそのまま反映しているのである。

一方で長期金利と呼ばれる10年物国債の金利はそれほど上がっていないどころか、やや下がり気味である。

この差はここでは何度も取り上げている通りである。

長短金利差の実体

しかしこの差は何を表しているのだろうか? もう少し詳しく見るために、市場の期待インフレ率のチャートも並べてみたい。

以下は10年物国債の金利(名目金利)から10年物のインフレ調整済み国債の金利(実質金利)を引くことで導出した、市場の期待インフレ率である。

これは10年物国債の金利から割り出した期待インフレ率なので、今後10年のインフレ率が年率で2.4%になると市場が予想しているということである。

ではこれを5年物国債について同じ計算をした期待インフレ率と比べてみるとどうなるだろうか?

5年の期待インフレ率は2.7%であり、10年のものよりも高く、しかもチャートの上がり方も激しいことが分かる。市場は今後10年のインフレよりも今後5年のインフレの方が酷くなると考えている。

今後の中長期的なインフレ率

この事実は、これから何年かインフレは上昇するが、今後必要となる金融引き締め政策のお陰で10年以内には沈静化する、つまりインフレ率はこれから上がって下がるという予想を市場がしていることが分かる。

そして恐らくそれは事実だろう。そして経済成長率も同じようになると想定される。恐らくは株価もである。

だが状況はそれで終わりというわけでもないというのが本稿の趣旨である。何故かと言えば、まずは前回アメリカがインフレに苦しんだ1970年代のインフレ率と、それにアメリカの政策金利を並べたチャートを見てもらいたい。

波が3回来ているのが分かる。もうお分かりだと思うが、コロナと同じように今のアメリカのインフレは第1波に過ぎないのである。

まずチャートの第1波の部分に注目してもらいたい。インフレ率は6%付近まで上がっており、この数字は今の前年同月比のインフレ率にほぼ等しい。

チャートを見て分かるように、この時はFedは9%近くまで利上げをし、結果としてインフレは沈静化された。

しかしそれでは終わらなかったのである。チャートの影がかかっている部分はアメリカ経済が景気後退に陥った部分であり、利上げをする度に経済が景気後退に陥っているのが分かる。

インフレでやむなく利上げをし、インフレはようやく落ち着いたが経済は死んでいる。人々が何を望むかお分かりだろうか? 緩和である。

それでもう一度金利は下がり、結果としてインフレ率は再び上がることになる。経済はコロナのために今でも十分疲弊しているが、今後利上げによる景気後退を経験すれば更に疲弊した状態になるだろう。

経済成長を維持するためには更に強力な緩和が必要になる。それでインフレの第2波は第1波より高いものになる。これが何度も続いて経済が壊滅的な物価高騰を経験するところまで行ってしまうというのが1970年代の教訓であり、恐らくこれから同じようになる可能性は高い。

結論

これまではインフレ第1波のことだけを書いてきたが、市場がようやく第1波を警戒し始めたので、ここではそろそろ第2波について考え始めても良い頃だろう。他人より早く先を読むことが投資家の仕事だからである。

しかし世界経済は本当に気の滅入る先行きになってきたようだ。リフレ派の人々は果たして責任を取るだろうか。