物価高騰と金融緩和でトルコリラが暴落中

為替相場にいつも楽しい話題を提供してくれる通貨といえばトルコリラであるが、アメリカまでインフレが止まらなくなっている現状においては、インフレによる通貨暴落を発展途上国特有の現象と笑っていられなくなってきている。

物価高騰するトルコ

トルコリラについて最後に報じたのは6月のことだった。トルコではコロナ以後インフレが止まらなくなっている。トルコのインフレ率のチャート(前年同月比)は次のようになっている。

トルコの元々のインフレ体質のお陰でそれほど上がっているように見えないが、数字を見てみれば最新のインフレ率は19.9%である。

物価を懸念した当時の中銀総裁アーバル氏は利上げを敢行していたが、金融引き締めは経済を痛めるためそれを嫌ったエルドアン大統領に3月に解任されていた。

その後新たに総裁となったのがカブジュオール氏である。彼は「利上げはインフレをもたらす」という斬新な考え方の持ち主だった。ここまでが前回までの話である。

その後トルコは実際に利下げを行なった。最後の利下げは今月18日で、9月以降政策金利は19%から15%にまで引き下げられている。トルコのインフレ率がほぼ20%なので、政策金利からインフレ率を引いた実質金利は-5%とかなりのマイナスになっており、物価高騰が止まらない中でトルコ中銀が緩和に走っている姿が浮き彫りになっている。

しかし心配は要らないらしい。カブジュオール総裁は実質金利が-5%となっている金融政策を「インフレ抑制のために十分に引き締まっている」と表現しており、彼の言うことが正しければインフレは次第に収まり、したがってトルコリラの減価を恐れた人々が為替相場でリラを投げ売りすることもないということだろう。

ちなみにドルリラのチャート(上方向がドル高リラ安)は次のようになっている。

今年の金融市場はコメディが多過ぎる。

より緩和的なアメリカ

しかしこれは本当に対岸の火事だろうか? 読者は上と同じ議論をアメリカ経済に適用すると実質金利はどうなるかご存知だろうか?

まず、アメリカのインフレ率は同じように前年同月比で6.2%であり、それに対してアメリカの政策金利はほぼ0%である。

つまり、実質金利は-6.2%となり、トルコどころの騒ぎではない超緩和状態なのである。

だからマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏ら専門家はいち早く量的緩和を終了して利上げに向かうべきだと主張している。

しかし現状の予定では量的緩和は来年6月まで終了しないらしい。

このまま行くとアメリカ経済はトルコと同じレベルの物価高騰となり、誰も食料品を十分に買えない状態に陥るだろう。

これは現金給付と金融緩和がもたらした人災である。しかしそうした政治家を選んだのは有権者だから、自業自得と言うべきなのだろう。筆者は淡々と人災に備えている。