ここのところアメリカのインフレばかり報道しているが、物価が高騰しているのはアメリカだけではない。ヨーロッパも同じである。そしてそれが為替市場に影響を与え始めている。
インフレとユーロ下落
インフレが世界中に影響を及ぼしている。原因はアメリカで行われた現金給付による消費増加と脱炭素政策による化石燃料不足であり、特に力強く脱炭素を強行したヨーロッパでは電力価格の高騰が既に社会問題となっている。フランスはインフレ対策として現金給付を決定したが、どう考えても逆効果である。
産油国であるアメリカよりもヨーロッパにおけるインフレは深刻である。
では、為替相場はどう反応しているだろうか。ドルがあまりにも動かないのでインフレが為替相場に影響を与えないかのような印象を受けがちだが、それはドルが基軸通貨だからである。
大英帝国のポンドやオランダ海洋帝国のギルダーがそうだったように、世界中で使われている通貨は多くの人が買おうとするため、そう簡単には落ちないのである。
更に、アメリカでは中央銀行が金融引き締めに動こうとしている。2018年の世界同時株安のように、最後には株価が崩壊して中央銀行は降参しなければならないとしても、アメリカは今のところ利上げに向かおうとしている。パウエル議長は後ろ向きなのだが、よりまともな他のメンバーが明らかにインフレを憂慮しているのである。
ユーロとインフレ
一方でECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁はインフレについて次のように述べた。
現在のようにインフレ圧力が弱まってゆくと予想されるとき、金融政策を引き締めるのは合理的ではない。短期的なショックが過ぎた後に引き締めが実体経済に影響を与えることになってしまうだろう。
またもや「インフレは一時的」理論である。しかしインフレは既に半導体など短期要因のみならず、労働市場や住宅市場など明らかに短期的ではない部分にも大いに飛び火しており、何より一番の元凶である脱炭素政策を彼らは短期的なものだと考えているのだろうか。今でもまだ「インフレは一時的」だと主張し続けているのはパウエル氏とラガルド氏ぐらいではないだろうか。
アメリカではマクロ経済学の素人であるパウエル氏は中央銀行の他のメンバーにほとんど無視されており、他のメンバーが主導したテーパリングが今月決定され、しかもそのペースも他のメンバー主導で加速されようとしている。
しかしECBのラガルド氏には独裁が可能なようだ。物価が上昇するなか金融緩和を止めないと宣言したことで、当然ながらユーロは下落した。以下はユーロドルのチャートである。
これが物価高騰でも紙幣印刷を止めない国の末路である。そしてユーロの下落は紙幣印刷を止めない限り絶対に止まらないだろう。リフレ派の人々の望んだ通りの展開である。
ユーロの下落は長期トレンドなのだが、ユーロドルはドルが金融引き締めを断念するとユーロと同じようにドルも下がってしまう。
そこで一番良いユーロ凋落の指標となるのが以前奨めたユーロスイスフランである。
ユーロスイスフランも同じように最近特に下がっているのだが、こちらはより長期のチャートで掲載したい。
スイスは他の先進国に比べて負債も税金も少ない、財政的にはまともな国である。ユーロ圏に囲まれているので金融政策もECBのものにある程度連動せざるを得ないが、それは常にユーロよりもましなものとなる。したがってユーロ圏が紙幣印刷やインフレ無視など愚かなことを行えば行うほど、このチャートは下がってゆく。
エネルギー価格を高騰させる脱炭素政策や、インフレ対策で現金給付を決定したフランス、あるいは中東人を呼び寄せて地中海で溺死させた移民政策など、ヨーロッパ人は常に愚かなことを行う。
それは長期的に変わらないので、ユーロスイスフランの長期下落トレンドも永遠のものだということである。ユーロスイスフランは短中期的に上がった時に空売りを行い、そのまま長期的に持っておくべきポジションなのである。
そのトレードの根底にはヨーロッパへの懐疑とスイスへの信頼がある。植民地政策を始めたのも移民政策を始めたのもヨーロッパである。スタンレー・ドラッケンミラー氏はスイスのことを「立地は良くないがとてもよく機能している国」と言っていた。フランスとドイツが隣になければ良かったのだが。
ともかくスイスの財政は比較的まともであり、結果として税制もまともである。日本も国民は浪費をしないはずなので、自民党でなければ同じようになっていたのだが、東京五輪やGo Toトラベルのような政策のために税金を払うように自分で投票した人は是非頑張って払ってもらいたい。そして10万円は降ってこない。