さて、機関投資家のポートフォリオの一部を開示するForm 13Fの季節がやってきた。まずはレイ・ダリオ氏の運用する世界最大のヘッジファンドBridgewaterのポートフォリオから始めたいが、非常に興味深いアップデートとなっている。恒大集団のデフォルトが囁かれる中で中国株を大幅買い増ししているからである。
株式に強気のダリオ氏
早く内容に入りたいところだが、まずはいつものようにポートフォリオの総額から見てゆこう。Form 13Fでは基本的には買いのポジションだけが開示されるので、Form 13Fに申告されたポジションの総額を見れば、一般にはそのファンドが株式に強気かどうかが分かる。
Bridgewaterの直近1年間のポジション総額は次のように推移している。
- 2020年12月末: 116億ドル
- 2021年3月末: 113億ドル
- 2021年6月末: 156億ドル
- 2021年9月末: 183億ドル
順調に増額されている。コロナ初期には50億ドルまで減額されていたから、順調に増額されているようだ。ダリオ氏は少し前の記事で資産価格が上昇してもインフレに押し負ける可能性を指摘していたが、今のところは株式から逃げていないようだ。
とはいえ、ゴールドETFであるSPDR Gold Trustも増額されているから、明らかにインフレを意識してはいる。
- 2.7億ドル -> 3.9億ドル
しかし今回の開示での目玉はゴールドではなく中国株である。中国株を多く含む新興国株ETFのポジションは以下のように変化している。
- Vanguard Emerging Markets Stock Index Fund: 6.4億ドル -> 11.7億ドル
- iShares MSCI Emerging Markets ETF: 1.2億ドル -> 10.1億ドル
- iShares Core MSCI Emerging Markets ETF: 2.8億ドル -> 8.5億ドル
かなり強い買いではないか。更にこれとは別にAlibabaの株式も買い増している。
- 3.2億ドル -> 4.9億ドル
合計するとポートフォリオ全体の30%以上が中国を中心とする新興国株で構成されていることになる。
恒大集団のデフォルト危機
これは恒大集団を中心とする中国の不動産バブル崩壊が懸念される中で異様とも言える中国選好である。ダリオ氏は恒大集団の危機について次のように述べていた。
恒大集団の借金は3,000億ドル(訳注:2兆元)で、それなら対処可能だ。
どの時代のどの国にも当てはまることだが、債務が自国通貨で発行されている場合、債務危機は対処可能だ。
これはかなり苦しい言い分だと筆者は見ている。まず、問題は全くもって恒大集団だけの話ではない。中国の不動産市場全体の問題であり、不動産市場が崩壊すれば不動産は値上がりし続けるものという前提で将来設計をしている多くの中国人が路頭に迷うことになる。
そしてダリオ氏の論理は自国通貨で発行された債務は紙幣印刷出来るので対処可能だということだが、紙幣印刷によって物価上昇が止まらなくなっているアメリカについては次のように述べていた。
昨日のインフレ統計はインフレが高まっており、人々の財産を溶かしていることを示している。これは当然である。
アメリカは収入よりもよほど多くの消費をしており、しかもそれをばら撒かれて減価している紙幣で支払っている。状況を改善するには協力してより生産するしかない。今のところ、われわれは間違った方向に進んでいる。
これはダブルスタンダードではないのか。
ダリオ氏は中国に本気
筆者はダリオ氏が恒大集団の問題は対処可能だと言ったとき、既に中国株を持っているためにそう言わざるを得ないのだと考えた。しかしダリオ氏は更に中国株に金を積んできた。彼は本気である。
一方で中国の不動産市場は確実に空中分解を始めている。
ダリオ氏の賭けは奏功するのだろうか。筆者はまったく反対の方向に賭けている。ダリオ氏の健闘を祈りたい。