ゴールドが上がっている。アメリカでのインフレとともに上昇しており、著名投資家らが去年から警告していた物価高騰が止まらなくなるシナリオをついに金融市場が織り込み始めたと言える。
金価格の推移
ここまでの金相場の流れを復習してみよう。
まずコロナ初期にはコロナ対策の緩和に反応して高騰した金価格だが、去年後半以降に市場が経済回復を織り込み始めると銅など産業で使われる他のコモディティに遅れを取り始め、そこから1年以上停滞を続けていた。以下が当時からの金価格のチャートである。
しかしここ数日の上昇はこれまでのレンジ相場とは質が違うと言える。ここ半年間アメリカの物価高騰に反応しなかった金価格がCPI(消費者物価指数)の高騰に反応したからである。
アメリカのインフレ懸念は筆者や著名投資家らは去年から警告していたが、市場が気にし始めたのは主に今年に入ってからである。しかし貨幣価値下落で買われるとされる金価格は、上のチャートを見るとインフレが話題になっていた今年の間ずっと低迷している。
金価格低迷の理由
金価格が低迷していた理由は中央銀行のテーパリング(量的緩和縮小)と利上げ観測である。中央銀行が金融引き締めを行うとき、金融政策に敏感に反応するゴールドには不利になる一方で、銅など他のコモディティは相対的には有利だということを6月に述べておいた。
その後の展開はそこに書いた通りである。
さて、しかしその間もアメリカではインフレが騒がれていた。今更になって金相場がインフレ加速に反応したのは何故か? それはアメリカの物価上昇がもはや一時的なものではなく、脱炭素政策や住宅価格上昇など長期的な要因に基づいたものであり、しかも資産価格下落を気にした中央銀行は確固たる措置が取れないということを市場が見透かし始めたからである。
一方でアメリカ経済は減速を始めている。物価上昇が止まらない一方で経済が減速する、スタグフレーションがアメリカ経済に迫っている。
この状況では中央銀行はもはや金融緩和によって経済を支えることが出来ない。緩和をすれば物価が高騰し誰も何も買えなくなってしまうからである。それは日本でも既にガソリン価格に反映されており、来年には広範囲にスーパーの食料品などの価格に反映されるだろう。
結論
つまりはデフレを退治すると言っていたリフレ派の人々が見事にインフレを呼び込んで経済成長を退治してしまったということである。最初から分かっていたリフレという疑似科学の終焉である。
人々は何故最初から分かっている穴に自分から落ちて行くのだろうか。誰か教えて欲しいものである。
金価格について言えば、株式市場の動向によっては下落圧力がかかる可能性もある。リーマンショックにおける株安と金価格下落で、株安は金相場にマイナスに働くことが分かっている。
だが今回の場合、金価格は既に去年の高値から下げているので、来年に予想される株安に連動して下がってもここ数ヶ月の底値程度までだろう。つまり、金価格は恐らく底を打ったと言える。
その後はスコット・マイナード氏が最初から予想していたシナリオである。もはや何も言う必要がないだろう。