アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで中央銀行のインフレ対策が甘すぎると指摘している。
止まらないアメリカのインフレ
アメリカのインフレは止まっていない。現金給付による需要過剰と脱炭素政策によるエネルギー価格高騰で加速しているアメリカのインフレは、アメリカ経済が減速の気配を見せている一方でそれほど弱まっていない。ジェフリー・ガンドラック氏が半年も前に予想した通りの展開である。
しかし緩和は続いている。アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は今月テーパリング(量的緩和縮小)の開始を発表したものの、量的緩和は来年6月まで終わらず、利上げにも及び腰である。
インフレが加速する中で量的緩和を行なっていることの異常さがここの読者以外の人々にも分かってもらいたいものである。
サマーズ氏はパウエル議長のインフレに対する姿勢が十分だったかと聞かれ、次のように答えている。
緩和状況を実質金利や資産価格で測るならば、先週水曜にパウエル氏が話した時よりも、あるいは数ヶ月前よりも緩和的になっている。だから経済はリスクの高いシナリオへ向かっているのではないかと憂慮している。
3日に行われたFOMC会合の後に金融市場がどう反応したかと言えば、1つは金価格上昇である。
コロナ初期に上昇した後は長らく低迷している金価格が少し息を吹き返してきた。そしてその理由は皮肉にも中央銀行がインフレを退治できないと市場が見透かしていることにある。
債券投資家のスコット・マイナード氏はインフレに見舞われたアメリカ経済の選択肢は2つしかないと述べた。
そして筆者や著名投資家の多くは政治家と中央銀行は物価高騰を引き起こすだろうと予想しているのである。
リフレ派の言い分
政府や中央銀行は何故緩和を止めないのか? 端的な理由は頭の足りない有権者の票が欲しいからだが、彼らの理論的ベースになっているリフレ派の経済学者の論理についても考えてみよう。サマーズ氏は次のように述べている。
わたしの友人で元クラスメートでもあるポール・クルーグマンのような思慮深い人々の主張は、景気後退になれば破滅的な結果になるから緩和しなければならない、そしてインフレは対処可能な問題だということだ。
景気後退のリスクから経済を守らなければならないということには同意するが、わたしの考えではインフレが加速した場合に中央銀行がそれをソフトランディングさせることの出来る実証済みの方法はほぼ存在しないということだ。
クルーグマン氏のようなリフレ派の元々の言い分は、インフレになれば金融引き締めをやれば良いというものだった。そしてついにアメリカはインフレになったが、今度は彼らはまだインフレではないと言い始めた。子供の言い訳だろうか。
しかしアメリカでは実際にあらゆる商品の価格が上がっており、日本ではまだガソリンや食料品の一部に限られ広範囲には広がっていないが来年にはそうも言ってはいられなくなるだろう。原油価格高騰は衣料など様々なものに転嫁されるからである。
リフレ派の経済学者が現実逃避を始めるのは構わないが、実際に高くなった商品を買わなければならない消費者はどうすれば良いのだろうか。そもそもリフレとは経済学ではなかったのである。
誰も得しない現金給付
結局、アメリカ人は現金給付でもらった金額以上の金額をインフレで支払っている。しかも現金給付は一時的だったが、インフレは一時的ではないというおまけつきである。
現金給付という非常に共産主義的な政策は中国とソ連の失敗を欧米と日本にもたらそうとしている。ジム・ロジャーズ氏の以下の発言が思い出される。
歴史から学べることは、人は歴史から学ばないということだ。
そこにリベラル派の脱炭素政策によってもたらされたエネルギー価格高騰が付いてくる。
愚かな政策を支持した人々のお陰で来年の家計は世界中で厳しくなるだろう。リベラル派やリフレ派の人々は責任を取らないのだろうか? 彼らは自分が共産主義的だということが分かっていないのである。