中国のGDP2%分の負債をかかえて倒産の危機に瀕している不動産ディベロッパーの恒大集団のデフォルトが刻一刻と迫っている。
自力の借金返済はほぼ不可能と見られ、投資家は中国政府が恒大集団を救済するのかしないのかを見守っているが、その動向を予想するのに参考になるのは中国共産党と、そして中央銀行である中国人民銀行の発言だろう。
恒大集団の救済はあるか?
これまで中国共産党は恒大集団について多くを語ってはいない。傘下のタブロイド紙が次のように述べたくらいである。
恒大集団は『大きすぎて潰せない』の原則に基づく政府による救済を期待すべきではない
しかしこれも先月の話であり、その後IMFなどが中国に恒大集団を救済するようプレッシャーを掛け続けている。
中国政府は翻意したのだろうか? 中国人民銀行総裁の易綱氏は今月17日にG30の会合で次のように述べている。
中国は恒大集団の債権者と資産保有者の法的権利と法で定められた返済順位を完全に尊重し保護する。
筆者はこれに少し驚いた。中国が法を守ると言ったから驚いたのではない。「返済順序」という単語を口にしたからである。
返済順序とは、企業がすべての借金を返済出来ないことが判明した場合に、誰に優先的にお金を返してゆくのかを決めた順序のことであり、多くの国ではまず取引先、次に債権者、そして最後に株主の順番で倒産後残った資産が割り当てられることになる。
これはすべての負債の返済が不可能と決まった後に行われる手続きであり、つまり中国人民銀行は恒大集団のデフォルトを既に見込んでいるということになる。
またこの発言の数日前には中国人民銀行は次のようにも述べている。
恒大集団の債務膨張は特殊なケースであり、中国の不動産市場全体は概して健全である。
さてこれはどうだろうか。意味合いとしては、恒大集団は倒産しても他の企業は大丈夫だと主張したいのだろう。
一方で、これまで不動産は絶対に下落しないと信じていた中国人の不動産信仰は恒大集団のデフォルト危機で崩れ始めているようであり、以下の記事で述べたように中国の一部地域では駐車場などの不動産が「白菜並み」の価格で投げ売りされていると報じられている。
不動産に人生を全賭けし、そこからの収入で老後を暮らすことを考えてきた人も多い中国人にとって恒大集団の件はショックだっただろう。
確かに恒大集団以外の不動産ディベロッパーの公開されている財務諸表は恒大集団ほど悪いわけではないのだが、不動産価格が暴落すればそれらの資産状況も悪化し、同業他社の多くも倒産を免れないだろう。まさにジョージ・ソロス氏が予言した状況である。
習氏は金融市場がどう動くかを理解していない。
そして中国人民銀行は現実逃避を始めたようだ。しかし金融市場の面白いところは、現実逃避をすればするほど現実は追いかけてくるということである。
結論
ともかく投資家にとって重要なのは恒大集団が救済されるかどうかということであり、上記の発言を見る限り、恒大集団主席の許氏の発言から中国政府の救済はないと踏んだ以前の予想はどうやら正しかったようである。
政府の救済の目処はやはり立っていないと解釈しても良いだろう。
許氏はもう少しポーカーを勉強する必要がありそうである。
日本やアメリカへも徐々に影響は出てくることになるが、恒大集団の倒産はその最初の一歩に過ぎないだろう。そこから不動産の暴落、輸入の減退を通して世界経済に徐々に影響を与えてゆくのである。