中国のGDP2%分の負債を抱えたまま倒産の危機に瀕している中国最大級の不動産ディベロッパー、恒大集団の債券が来週中にも公式にデフォルトとなる可能性がある。先月支払われなかった債券利払いの猶予期間が終わるからである。
オフショア債券のデフォルト
恒大集団は先月から債権者への利払いをほとんど遂行出来ていない。この内中国国内の投資家への借金は「投資家との合意に至った」という曖昧な文言のまま、利払いの一部だけが支払われたようである。
利払いの一部だけしか支払えないならば元本返済は不可能に違いないのだが、「投資家との合意」に至っている限りは公式にはデフォルトではない。この意味では、極論すると中国政府が中国国内の投資家を脅せば恒大集団は永遠にデフォルトしないということにもなる。
一方で恒大集団にとって問題なのは海外の投資家への借金である。中国政府といえども海外の投資家に圧力を加えることは出来ず、返済が行われないならば海外投資家は法的な手段を取るだろう。実際、彼らはその準備をしているようである。
恒大集団はこれまで何度かオフショア債券(海外で資金調達した借金)への利払いに失敗しているが、その最初のものは9月23日が支払期限だった。
この利払いは行われていないのだが、まだデフォルトにはなっていない。何故ならば、手続き上のミスなどで支払われなかった場合のための猶予期間として、期限から30日以内に支払いが行われればデフォルトにはならないというルールが恒大集団の債券には存在するからである。
しかし9月23日の30日後にその期限が到来するということは、つまり恒大集団は来週後半には公式にデフォルトになるということを意味する。
デフォルトすればどうなるか
この状況を回避するためには、恒大集団は何とか資金調達をして利払いを行うか、中国政府が恒大集団を救済するしかない。しかし30日という期間でどうにかなるのならそもそもこういう状態には陥っていなかっただろうし、9月23日分の利払いを仮に行えたとしても他のオフショア債券の利払いの期限の猶予切れが次々に押し寄せてくる。
恒大集団が自力でどうにかできる可能性は低いだろう。では中国政府による救済の可能性がどうかと言えば、今のところその可能性は低いようである。以下の記事を参考にしてもらいたい。
1つの理由は恒大集団が中国の不動産バブルの氷山の一角に過ぎないということだろう。恒大集団のGDP2%分の負債だけをどうにかしたとしても、他の不動産ディベロッパーも同じような窮地に陥っていることを中国政府は知っている。仮に恒大集団だけを救済したとしても焼け石に水なのである。
こうした状況を受けて中国では既に不動産バブルの崩壊が始まっているようである。不動産価格の下落は8月には既に始まっており、東方新報によれば中国の一部地域では駐車場価格などは「白菜並み」に下落しているという。中国特有のなかなか面白い表現である。
中国の不動産バブル崩壊
いかに中国政府といえども、恒大集団を助けられても不動産市場全体を救済することは出来ないか、出来たとしても通貨下落などの莫大な副作用を生むだろう。IMFなど海外勢は安易に中国政府に救済を促しているが、事態は既にそんな簡単な状況を大きく通り越しており、中国政府にはそれが分かっている。
問題は中国の不動産市場が中国経済にとって大きすぎるということである。繰り返しになるが、中国人の不動産信仰は外国人には想像できないものである。彼らは不動産は下落しないものだと信じており、優れた不動産を保有することが人生のゴールだと考えている人も少なくない。
中国人にとっての不動産はアメリカ人にとっての株式であり、不動産市場の崩壊は中国人全体の資産形成が崩壊することを意味する。
しかし恒大集団がデフォルトし、借金を返済するためにGDP1%分以上と推計される手持ちの不動産を投げ売りしなければならなくなれば、中国の不動産バブルには間違いなくとどめが刺されるだろう。
金融市場への影響
世界の金融市場は恒大集団の問題に一時は大きく反応したものの、9月23日には公式なデフォルトとはならなかったために金融市場はこの問題など忘れてしまったかのように楽観に湧いている。
恒大集団自体に至っては株式が取引停止されたので株価はもう下がっていない。これで株価の下落という問題は永遠に解決される。
冗談はさておき、しかし問題は何も変化していない。
恒大集団がデフォルトすれば中国の不動産バブルは崩壊し、中国の不動産バブルが崩壊すれば中国経済が大きく後退することはほとんど不可避である。その場合金融市場でどういうものが下落するかについては先月の記事で既に書いている。
日本やアメリカの株式市場については、まず中国の不動産市場が崩壊し、中国の消費が落ち込み、それが中国の輸入減少などの形で影響を及ぼすだろう。
金融市場の崩壊といえば一瞬で起こるような印象を生むが、実際にはリーマンショックの時にも株価の下落は1年以上かけて起こっており、恒大集団の問題も世界の金融市場は1年ほど掛けながら徐々に織り込んでゆくことになる。
しかしこの問題は市場が楽観するような小さいものではない。以下の記事で説明した専門家の意見も参考にしてもらいたい。